効果
「カーツ君は畑に案内してくれた。それからお米の精米がんばってくれた。ブライス君はご飯を炊くのを見てくれてたしいろいろと教えてもくれた。それからキリカちゃんもいろいろ教えてくれたしポーションの瓶を片づけるの手伝ってくれた。その労働の対価なんだから、他に何もいらないから、いっぱい食べていいのよ」
「え?でも……」
カーツくんがブライス君の顔色をうかがう。
ダンジョンルールで何かあるんだろうか。
ブライス君は黙ったままだ。
「私の故郷では働かざる者食うべからずって言葉があるの。逆に言えば働いた人は食べていいってことでしょ?みんなこの焼きおにぎりを作るために働いたんだから、当然好きなだけ食べていいのよ?」
ブライス君が立ち上がり、部屋からポーションを持ってきた。
え?素直に食べてくれないの?受け取らないよ。
ブライス君はそのまま自動販売機で火の魔法石を買って私のもとに持ってきた。
「ユーリさん、またみんなで手伝うので料理を食べさせてください。材料はみんなで出し合いますから」
あ、そうか。火の魔法石だけ私が出した(現状借金、借ポーションだけど)んだ。
「私も、私も材料出すよ!」
キリカちゃんが米粒をほっぺたにつけた顔で手を上げた。
「俺も、手伝うし、必要な物はちゃんと出すから!また食べたい!」
ああ、なんていい子たちなんだろう。
ダンジョンルールなんてなければ、ただ、ただ、何でも甘やかしてしまいそうだ。きっとこの世界ではそれでは生きていけないのだろう。
おいしいって言ってくれて笑ってくれれば、それだけで何もなくたって料理はするのに。むしろ無理やりにでも食べさせたいくらいなのに。
でも、それじゃダメだから。
「料理をするときには手伝ってくれて、材料はみんなで平等に出し合って、それから、片付けもちゃんと手伝うというなら料理するよ」
「やった!じゃ、おかわり!」
おかわりで、カーツ君が3つの焼きおにぎり。
ブライス君と私が2つ。キリカちゃんが1つ食べたら、お昼用のが残りませんでした。
片付けもみんなで手分けしてすぐに終わりました。といっても、鍋と皿とフォークを洗うだけだったんだけどね。
「では、ダンジョンに。カーツ、体力は回復したか確認」
「はい、ステータスオープン、うわっ」
ステータス画面を見てカーツ君が大声を出した。他の皆には画面が見えないから声の理由が分からない。
「どうした?まだ回復していないのか?」
「ち、ち、違う、なんか、何にも装備してないのに、補正値ついてる」
補正値?
「カーツ落ち着け。もう少し詳しく説明してくれ」
「守備力がプラス10になってる」
「皮の鎧、鉄の胸当て付きの皮の鎧を装備してつく補正値かな……」
補正値ってそういうことか。なるほど。
「あー。キリカもプラスになってるよ。守備力ね、5しかないけど、その後ろにかっこでプラス10って出てるの」
ブライス君もステータスを確認して目を丸くした。
「本当だ。僕も補正値が付いている。……考えられるとしたら、あれか」
ブライス君の視線が醤油に向いた。
「ダンジョンでモンスターが落とすドロップ品だ」
醤油瓶を手にするブライス君。
「回復効果はないが、別の効果があるというわけか……」
さすがファンタジー。
「でも、前にハズレポーション飲んだ時はそんな効果なかったはずだぞ」
「ああ、ありましたね。カーツ君がここにきて3日目でしたか。まずいし効果もないと教えたのに、飲んでしまったことがありましたね」
ブライス君がふっと思い出し笑いをする。
なんだ、私だけじゃないんだ。試しに飲んでみようって思うの。
っていうか、カーツ君は経験したからこそ、吐くほどにまずいからやめとけと必死に止めてくれたのか。
「本当に効果がないのかステータス確認したら、HP回復するどころかまずくて吐いて体力消耗して減ってたんだぞ。補正効果も何にもついてなかった」
そうか、逆に体力奪われるとか、そりゃ誰も見向きもしないか。
……醤油なんてお猪口1杯分でも飲むの大変だしね……。
「ですね。カーツくんのように試しに口にした人も過去にもたくさんいたでしょうし、もし補正効果が付くならとっくに発見されて広まっているでしょう。いくらまずくても補正効果のために無理してでも飲む人はいくらでもいるはずです」
そりゃそうだ。
青汁だって、まずいけど体にいいからってがんばって飲むわけだし。
「まぁ、分からない話をいつまでも考えていても仕方がありません。ローファスさんが来たら尋ねてみましょう。そうだ、ユーリさん、これは武器になりませんか?」
ブライス君が半畳くらいの大きさの板を差し出してくれた。
「使っていない部屋の窓の扉ですが」
「ありがとう、わざわざ外してきてくれたんだね!うん。やってみる。みんなも協力してね!」
私の言葉にキリカちゃんが頷いた。
「ダンジョンルール、パーティーはお互いに協力すること」