124 味見
「あ、はい。えっと、私のっていうか、小屋の備品っていうか、その、ローファスさんから預かったカードのお金で買ったから、ローファスさんのっていうか……」
「なんか、すげーもん買ったな?」
ローファスさんが包丁をひっくり返してハンノママークを見た。
「うおおおおっ、なんだ、これ、すごいはずだ、ハンノマのじじぃのじゃねぇか!」
じじぃ?おじさんくらいの年齢に見えたけど、じじぃ呼ばわりって。
そういやぁ、ハンノマさん、ローファスさんのこと坊主って言ってたなぁ。
「なんだ、ユーリ、どうしてユーリがじじぃの武器持ってんだ」
ローファスさんの目がギラっとしてます。
あ、誤解です。別に、無駄遣いしたわけじゃなくて……。
そうだ。預かってた黒いカード。
ぽっけから出してローファスさんに手渡す。
「武器じゃなくて、包丁です。あの、だから、料理関係のものはあのカードで買えたから……」
「表示」
カードの記録をローファスさんが見た。
「うわーっ、なんだぁっ!カーツもキリカもじじぃの武器買ってるじゃねぇか!どういうことだ!どういうことなんだぁ!」
何かひどくショックを受けてます。
「おい、ユーリ、この武器、攻撃力どれだけある?」
「えっと、200くらい補正値が付きます」
「ぬぁんだってぇ~!攻撃力が200も上がるって、200も上がるって、それが、金貨1枚って、ありえないだろう!」
「あ、えっと、特別価格だっておまけしてくれました」
ローファスさんが頭をがりがりと両手でかいている。
「坊主にはわしの武器はまだ早いって、ずぅーーーーっと売ってくれなかったのに、なんでレベル1のユーリにはあっさり売ってるんだぁ!」
「あの、私、レベル2に上がりました」
「あ?ああ、すまない。そうか。頑張ってるもんなって、違う!そうじゃない、レベル1でも2でも一緒だ!俺には売ってくれなかったくせにっ!」
うぐぐぐっと、ローファスさんが悔しそうな顔をする。
「そ、そうだ!新しい武器売ってもらおう。あれからまた俺もレベルが上がったんだ。ユーリ、ちょっとハンノマのじじぃんとこ行ってくる」
くるりと背を向けて立ち去ろうとするローファスさん。
「あ、ローファスさん、ハンノマさん旅に出ちゃったから当分お店は休業だと思います」
がくっと膝を落としてうずくまるローファスさん。
泣いてる?
えーっと、とりあえず……。
!そんな場合じゃなかった!
「ローファスさん、ブライス君を助けてください!さっき、蛇に締め付けられて口から血を流して……」
ローファスさんが腰にぶら下げた袋からのろのろとポーションの瓶を取り出す。
「それくらいなら上級ポーションで何とかなるだろって、ああ、ブライスはまだ上級ポーションは飲めないのか!」
だったら、ポーション料理なら?
バタリと倒れているバジリスクに包丁を当てる。スパーン。
も一度スパーン。
胸肉が私は好きなので胸元の肉を少し持って急いでダンジョンへ。
ダンジョンの外でしか料理ができない。
火の魔法石をもう一度油の入った鍋に放り込む。
「油の温度を180度に保ち続けろ」
ダンジョン内テントの中では横たわるブライス君と心配そうに見ているキリカちゃんとカーツ君。ポーションの瓶をひっつかんで、深皿に入れる。
醤油ポーション、酒ポーション、それからポーション。甘味があまりつくといけないので控えめ。生姜味は欲しい。
それから一口サイズに切った鶏むね肉を入れてもみこむ。
少し漬け込みたいところだけれど、時間がない。
小麦粉をまぶして、十分熱せられた油に投入。
よし。できた。
目の前にはローファスさんの姿。
「ローファスさん、味見お願いします」
「よし来た!」
喜んで鶏のから揚げを口にするローファスさん。
ごめんね。バジリスクを食べても大丈夫かわからなかったので実験台です。
なんとなく、ローファスさんならちょこっとダメなもの食べても大丈夫な気がしたんで。
「うっうま!なんだこれ?いや、これ、ありえないだろう、バジリスクって、こんなうまいものなのか?いやいや、ユーリ、ちょっともっとくれ!」
じーっと、ローファスさんの様子を見るに……遅延性の毒でないかぎり大丈夫そうだ。




