121 収束でいいのかしらね?
ブライス君が今度は照れたように笑う。
「この身に流れる血に初めて感謝したくなりました」
ん?
血に?
それって、エルフの血にってこと?
初めて感謝って、今まではエルフの血が流れていることが嫌だったのかな?
……少しだけ私より背の高いブライス君の横顔を見る。
28歳で、中学生にしか見えないブライス君。
成長が遅いというのは、つらいことだったのかな?
あいにく私は成長してもブライス君よりも背が低いわけだけど……。日本で年齢通りに見られなくて苦労したことは……うーん。
そんなになかったなぁ。中学も高校も制服着てれば中学生として、高校生として扱われたし。
大学では学生証見せれば問題なかったし。
自分が何歳であるかって証明はすぐにでた。
この世界では……。レベルが人よりも上がりにくいとかじゃ、大変だよね。28歳でレベル10って、キリカちゃんやカーツ君と比べても時間がかかってるわけだよね?
そりゃ、大変だよね。その分長寿だったとしても……。
「私も魔法が使えるようになったら氷は作りたいんだ。作れるようになるかな?」
私の言葉に、ブライス君は笑顔を消して真剣な顔になった。
「僕やローファスさんが鑑定魔法を使えるのに、サーガさんが使えないのは見ましたよね?」
そういえば、そうだったような?
「人によって使える魔法と使えない魔法があるんです。どれだけ練習してもどうしても使えない魔法がある。実際に魔法が使えるようになって、いろいろと試してみてからしか残念ながらわからないんですよ。僕の場合は……まぁ、エルフの血が割と濃く出たおかげで、使えない魔法を探すほうがむつかしいくらいなのですが……」
そうなんだ。
「……練習しても使えない魔法かぁ……。うーん、ほかの魔法が使えなくても、氷を作る魔法だけはどうしても使えるようになりたいなっ!」
使えなかったら、冷蔵庫……いっそ、雪国にでも住もうか。冬の間だけは雪に食料埋めておけばいいし、室みたいなところに氷をいっぱい保存して、夏場はしのぐ。
そうだ!
ハンノマさんのこの包丁があれば、湖とかに張った分厚い氷だってスパスパスパーンだよね?
って、その切った大きな氷をどうやって室まで運ぶ?
うーん。氷だから、滑らせて押しておけばいい?
あれ?積み上げるのは?……ぐ、ぐぐぐ……。問題山積。10キロくらいまでなら何とか持ち上げて運んで疲れないくらいに力が付くかな。
私がいろいろと考えてむつかしい顔をしていたのか。
「使えなかったら……、僕がいつでもユーリさんのために氷を作りますよ」
ブライス君がそっと私の髪をなでた。
お、おおう。
どきり。
「えっと、その、ずっと先の話だしね?その頃はブライス君は冒険者としてあちこち忙しく働いてるかもしれないし、えーっと……」
レベルが10になるころには、私はいったいいくつになってることやらだし。
それに、何をして生活していこうと決めているかもわからない。
冒険者としてやっていける自信はなくなった。
殺せない。
モンスターを殺すことができない。
小屋にいた緑の人のように二本足で動くモンスターを思い出す。
「ねぇ、ブライス君、冒険者の仕事ってどんなものがあるの?」
「そうですね、ダンジョンに入ってモンスターを倒すのがメインですが、今回のスタンピードが起きた時のようにダンジョンの外でモンスターを倒すこともありますよ」
ダンジョンの中か外かの違いでモンスター退治に変わりはないんだ……。
「あとは、傭兵ギルドで人が足りなければ冒険者ギルドにも護衛や山賊討伐などの仕事が入ることもありますね」
え?モンスター相手でなく人を相手に戦うこともあるの?それ、もっと無理だ……。
「あと、レベルが低い間は、素材集めをメインで行うこともありますね」
「素材集め?」
「ダンジョンでも、モンスターの出現が少ないダンジョンに入って、薬草や鉱石を採取するんです。一応、低レベルの冒険者保護のために、ダンジョン内にはCランク以上の冒険者が巡回しているので危険は少ないのですが……。一日の実入りは少ないですし、モンスターを倒さないとレベルが上がりませんけど……」
危険が少なくて、モンスターを倒さなくていいダンジョンの仕事!やった!そういうのもあるのね!
よし。それなら何とかできそう!
と、話ながら歩いている間にクラーケンの前まで来た。
「じゃぁ、上から凍らせてきますね」
ブライス君がふわりと浮いて台地に降り立った。
いつもありがとうございます。
クラーケン……いつまでそこのいるのだ