118 甘い物としょっぱい物
本物の魔法がある世界で、魔法がかかったみたいって言葉を聞くなんてね。
「油使うと、ほかにもおいしいものたくさん作れるのよ」
「すげー。まじすげー」
クラーケンの唐揚げは、全部で千ほど作っただろうか。
サーガさんや別の兵や冒険者っぽい人が何度か取りに来た。
「兵の人数確認が済みました。全員回収して、あと1か所配れば終了です」
「それはよかったです。先ほど、冒険者の方々もギルドを通してこちらに来ている人は全員生存確認が取れたと聞きました」
サーガさんが頷いて見せる。
「よかった。今のところ、街への被害は出ていないそうですから。あとは、原因となったコカトリス殲滅さえすればいいわけです。兵たち全員で街側よりローラー作戦を実施する予定です」
ローラ作戦?
横にずらっと並んで、逃げ道がないようにみんなで前に進んでいくっていうあれだよね?
「冒険者たちにも協力を要請しています。もしかすると、先ほどのようにまだ残っているモンスターがいるかもしれんから、3人はダンジョンにいてください。2日ほどでローラー作戦は終わると思いますから」
え?
また、ダンジョンにこもるの?
2日間か……。
って、あれ?
「クラーケンとバジルの効果って、そんなに長く持たないですよね?」
「ああ、そういえばステータスオープン」
サーガさんがステータスを確認する。
「もう、効果は切れてますね。お昼からだいぶたちましたから……。でも平気のようです。どうやら1度きりしか効果のない毒みたいですね。体に耐性ができるタイプの」
ああ、水ぼうそうとか麻疹みたいな感じね。
そうか。それはよかった。
え?
じゃぁ、予防接種みたいに、毒に侵される前に食べておいたら、体に耐性とかできないのかな?私たちって、その状態なんじゃないのかな?
もしそうなら、街で毒が広がってから対処するんじゃなくて、街の人たちにあらかじめ食べてもらうっていうのは?
2日間ダンジョンにこもるんじゃなくて、2日間の間にクラーケンの唐揚げたくさん作っておくといいかもしれない。
あ、でも腐る?
冷蔵庫!冷凍庫!ああ!もう!せめて、ブライス君に大きな氷を作ってもらって、冷やしておければ……。
どこに?ダンジョンの中ではクラーケンは消滅しちゃうから、小屋?小屋の地下食糧庫?
いや、油系って腐りやすいから、クラーケンの身のままのほうがいいよね。
クラーケンの頭はまだブライス君が凍らせたまま凍ってるけど、足の先のほうで日当たりのよいところは溶けてる。
もう一度凍らせてもらわないと。
サーガさんが立ち去り、入れ替わるようにブライス君が現れた。
「ああ、ブライス君。ちょうどよかった!」
「何かありましたか?」
「えっと、クラーケンなんだけど、まだ腐らせるわけにはいかないと思うからもう一度しっかり凍らせてほしいの。で、えっと、一部を食糧庫に保存できたらなぁと思って。大きな氷も作ってほしいんだけど」
ブライス君が困った顔を見せる。
「すいません、すぐにしたいのですが、MPが……」
あ。
私ったら。相手のことを気遣えないなんて最低だ。
「ごめんね、ブライス君ずっと外で魔法つかいながらコカトリス討伐頑張ってくれてたんだよね。疲れてるよね。座って、休憩して」
ダンジョン内テントにブライス君を座らせる。
「こんなものしかないけど、どうぞ」
疲れた時には甘いもの。
薄く切ったパンにジャムを塗る。それから付け合わせにポテト。
「甘いのとしょっぱいのをいっしょに食べるのもおいしいんだよ」
ポテチとチョコとかね。
塩キャラメルとか、塩大福とか、それ系の楽しみ方は多い。
そういえば、名古屋出身の友達のスイちゃんは、ラーメンとクリームぜんざいを一緒に頼んで交互に食べるのは名古屋の常識と言っていた。
特に年配者にその食べ方を好む人が多いとか。若者は、ラーメンとソフトクリームの組み合わせだとか。
いや、うん、よくわかりませんでしたよ。
「これは、ジャガイモですよね?変わった形に切ってありますが……」
「あのね、これね、ハズレMPポーションを使ってあるんだよー」
ブライス君が目を見開く。
「え?ハズレMPポーションで鍋を温めているんですか?火の魔法石がもうないとか?」
ああ、やっぱりハズレMPポーションの油は火をつけるための認識なんだ。
いつもありがとう。
もう、お分かりですね?
ラーメンとクリームぜんざい、そう、それは、名古屋のソウルフード……げふんげふん。
ビュッフェにぜんざいとソフトクリームがあると、つい組み合わせちゃう人手を上げて( `ー´)ノスチャッ