116 ローファスさんが笑った
サーガさんに顔を向ける。
「料理の手伝いは確保できましたので、大丈夫です。あの、私たちも頑張ってできるだけ早く人数分用意できるようにしますから!サーガさんも」
「わかった。ありがとう。コカトリス討伐も、ブライス君一人に任せておくわけにはいかないからね。助かります」
サーガさんが頭を下げて、タコのバジル唐揚げを持って去っていった。
それから3人でタコの唐揚げづくりです。
この包丁があれば、キリカちゃんやカーツ君も……と思ってたら。
包丁、私以外使えない設定つきみたいです。
「なに、その勇者の剣みたいなのっ!」
「ユーリお姉ちゃん、勇者の剣ってなぁに?」
「えっと、岩に刺さっている剣で、誰が引き抜こうとしても誰にも引き抜けないの。でも、勇者に選ばれた人間だけが引き抜いて使うことができるっていう伝説の剣で」
「うっわぁー!かっこいいなぁ!そうか、これ、伝説の勇者の包丁なんだ!」
う、微妙にかっこ悪くないですか?剣を包丁にすり替えただけで。
「でも、これ、買っただけなので選ばれたわけじゃないので……もしかして利用者登録みたいな、ほら、あの小屋のドアで設定できるみたいな何かじゃないかな?」
だとしたら、ハンノマさんに設定の変え方を教えてもらわないと。
だって、これ、私の包丁じゃなくて、小屋の包丁だから。小屋に住んでるほかの人も使えないとね。
……次に街に行ったときに、ハンノマさんいるのかな?ゴムの木探しに行くって言ってたけど……。
「じゃぁ、カーツ君はバジルの葉をみじん切りにしてね。キリカちゃんは小麦粉とバジルの葉と塩をこれくらいずつ混ぜて」
油で揚げるのは飛び跳ねると危ないので私がやることにします。
菜箸も二人は使えないしね。
……というか、油から引き上げる網みたいなの欲しい。小さいの一つずつ菜箸では正直、最後に引き上げるものはちょっときつね色になりすぎちゃいます。
第二弾も40ほど上がる。
「おーい、どうだ?」
ローファスさんが来た。
「なんかうまそうな匂いがするなぁ」
クンクンと鼻を動かしつつ来た。
「それ、なんだ?」
口からよだれをたらしそうになりながら来た。
「クラーケンとバジルの、毒消し用の料理ですよ」
ローファスさんがちらりと物欲しそうな眼をこちらに向けて来た。
いや、もう、何、おあずけ食らってる犬みたいな様子は。
わかりました。わかりましたよ。
「味見で一つだけですよ?あとは倒れている人に食べさせてください。それから、全部終わって、余ってたらまた作ってあげますから!」
きっらーんと、ローファスさんの目が光りました。ええ、まじ光った。
「そうだ、キリカちゃんとカーツ君も、お手伝いしてくれてるんだから食べてもいいのよ。味見する?」
「うんっ!食べる!」
「いいのか?」
というわけで、3人にタコのバジル唐揚げを一つずつ差し上げました。
「な、なんだこりゃっ!今まで食べたもののなかで断トツうまい!え、いや、何、ユーリ、これ、本当、何?」
ローファスさんがパニックを起こしています。
うん。そうだよね。唐揚げって、好きなおかずランキングの上位ですもんね。そりゃおいしいですよ。
「唐揚げっていうんです。えっと、故郷だと鶏からが大人気ですけど、タコも人気がありますよ」
「タコって、これ、今食べてるクラーケンのことだよな?鶏からってなんだ?鶏からって?」
ローファスさんの興奮が収まりません。
「えーっと、鶏の唐揚げですよ。あ、とりって発音してますが、ニワトリです。故郷ではニワトリの唐揚げが大人気で、もも肉派とむね肉派で戦争が起きるくらいで」
私はあっさりしたむね肉が好きだったんだけど、主人はもも肉が好きだったから、実は二種類揚げてたんだよね。下味付けて冷凍しておいたのを少しずつ揚げてた。
「は?戦争?戦争を起こすほど、鶏というのは入手困難な食材なのか?」
え?
「あ、いや、その、本物の戦争じゃないですよ?」
そういえば、地球でも昔は香辛料を手に入れるために戦争とかあったんだよね?あれ?植民地にしたんだっけ?植民地にするために戦争だっけ?
「鶏は全然入手困難じゃなくて、えっと、飛べない鳥だったんで。頭に赤いトサカが付いててって、それは雄だけか……」
ローファスさんの目がギラリと光った。
「戦争を起こすほどうまい……そうか……。この、クラーケンよりもうまい……」
ぎらつく顔で、私を見て笑った。
にっこりとかにこっとかじゃなくて、にかっでもなくて、なんていうか、にっちゃぁ~っていう気味の悪い笑いです。
今日もお読みくださりありがとうございます。
明日は水曜なのでお休みです。




