113 闘争から逃走
こ、怖いっ!
包丁を思わず振り回す。
だけど、緑のモンスターは切れなかった。
「怖い、でも、人みたいな姿をしてるんだもん……殺せない。傷つけられない……。む、無理だよ……」
緑の小さな人の形をしたモンスターが私に気が付き、牙を見せた。
「!」
テーブルの上のバジルの包みをひっつかみ、小屋を出る。そして、全力疾走でダンジョンへ逃げ込んだ。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
こ、怖い。怖い。
何、してるの私。
怖いからって、逃げ出して。
倒せないって、弱音はいて。
自分の心を守るために、自分が傷つきたくないから……。
どうするの、料理、たくさんの人が苦しんでる。
小屋の入り口が見える。涙でにじんで見える。
小屋の前には、私が落とした鍋。そしてクラーケンの身のブロックが3つ転がってる。
今手元にあるのは包丁とバジル。
ダンジョンの中にいればモンスターは入ってこられない。
でも、ダンジョンの中では料理はできない。
いや、料理はできる。スタンピートが発生してから3日間はダンジョンにこもっていたんだ。
火の魔法石と水でジャガイモをゆでたりした。革袋の中で。
……でも、クラーケンは料理できない。
死んだモンスターはダンジョンの中では粒子となって消えてしまうから……。
小屋に戻らないと……。
小屋に戻って、あのモンスターをやっつけて……。
手に持っている包丁を握る。
この包丁があれば、きっと刃の先が少し触れただけでも勝てるはず。
ぶるぶると身震いする。
勝つというのは、つまり、あの……人のように二本足で立って歩くあの生き物を……殺……。
手が震え続け、包丁を落としてしまった。
ダンジョンの中でなければ、死体はそのまま残る。
色は違えど、子供のような姿の亡骸が小屋に……目に触れるところにずっと残って。
それは私が、私が殺したんだとその事実を突きつける物で……。
ダメだ。
無理。
今の私には、無理。
こんなんで冒険者になるなんてできないって笑われるかもしれない。
……私、覚悟がなかった。ゴキスラや蜂みたいなモンスターばかりじゃないのに。もしかすると、もっともっと人間に近い姿をしたモンスターもいるかもしれない。
ううん、人間に近くなくたって、チワワみたいな姿だったら?三毛猫みたいな姿だったら?
ライオンなら大丈夫なの?像なら?カバなら?ワニなら?
落ちた包丁を拾って両手で握りなおす。
そもそもこの包丁があっても、私の運動神経じゃ無理。
うん。犬や猫だって私なんかよりよっぽど素早くて、本気になれば私の手が届く前にあっという間に逃げる。もしくは私にかみついたり引っかいたりできるはずだ。
あの、緑の二息歩行の生き物だって、もしかするとすごく動きが早くて私なんてあっという間に倒されちゃうかもしれないわけで……。
う、うん。
そうだよ。私は、私の心じゃない。身を守るために逃げた。それは仕方がない。
私が死ねば結局一緒だもん。料理できないんだから。
幸いにして、材料はある。
バジルは死守した。クラーケンの身だって、小屋の前に取りに行けばいい。無理ならクラーケンからまた切り取ればいい。
あと料理に必要なのは……。
スタンピートの時に使ったテントの中に入る。
まだ生活のためのいろいろなものが残っている。
「あった!」
火の魔法石もまだいくつもある。水の魔法石も大丈夫。
ジャガイモのように、ゆでることはこれでできる。
ゆでてバジルを混ぜるだけ?……う、うん、なんか微妙。
どうしよう……。
いつもありがとう。
副題がダジャレ。
副題考えるの苦手。
えーっと、よし、では副題募集!
素敵な副題考えてね!
そのうち使うかもしれないから。(内容も分からないのに副題だけ考えろという無謀なふり。いいんです。副題をお題にして何か考えるから)