111 ハンノマ印のよく切れる包丁
剣を持ってる。切ってくれと……頼めるような状態じゃない。えーっと。
「あの足を切り落としたいので、少し剣を借りてもいいでしょうか?」
「クラーケンの足を?構わないが……お嬢ちゃんはレベルはいくつだい?怪我をしないようにな……」
レベル?
兵から剣を受け取る。刃の長さは木刀くらい。幅は日本の刀とちがい、15センチくらいもある。
うっ。
重いっ!
こ、これ……。そういえば、西洋の剣って、重さを利用して相手を叩きつけるから、日本の剣のように切れ味がどうのでなく力業みたいなのどっかで……聞いたような気が。
5キロの米袋を持って帰るのが限界の私だ。
剣を持つことはできる。でも、これを振り上げたり、クラーケンの太い足を切り落とすために振り下ろしたりとか……。
「無理そう……ありがとうございます。えっと、お返しします。包丁でなんとかします……」
剣を兵に返してクラーケンの足元に戻る。
足を丸ごと切り落とそうっていうのがそもそも間違ってた。
包丁で一部分を切り取って持っていけばいい。
手で押さえて包丁を当てて……。つるんっ。
うわー、ぬめりがっ!
しっかり押さえるのむつかしいっ!手を切らないように上手に切り取るの結構大変かもしれない。
と、もう一度押さえなおそうとクラーケンの足に手を置くと、なぜか足がぐらりと傾いて先っぽがぱたりと倒れた。
おや?
切れてる……。
「なぁーんだ。誰かが切った足だったんだね。
ラッキー。
と、まだ切れてる部分は大人が5人くらいの大きさだから、持って帰れない。頑張って運ぶことを考えると、5キロから10キロくらいのブロックに切り分けないと無理だ。輪切りになっったところに手を当てる。
「おや?表面はぬめるけど、切り口の内部はぬめってない」
もしかして、ぬめり取りのひと手間が、内側を使えば必要ない?
ラッキー。
ということは、切り口に包丁を差し込んでくるりと一周回して抉り取るみたいに切り取ればいいのかな?
包丁を両手で持って、切り口にぶっすり差し込んだ。
両手で持ったのは力がいると思ったから……なんだけど、
え?
「あ、あれ?力入れすぎた……」
包丁の先どころか、そのままずぶーっと軽い感じでクラーケンに刺さって。
糠に釘みたいな感じ?
絹ごし豆腐のよう。
柄の部分、両手で持っている部分までクラーケンに埋まってしまった
手を引き抜く。
クラーケンの身は決して豆腐のように柔らかくはない。いや、軟体動物なんだから硬くもない。火を通す前のタコの身はぶよんぶよんだ。だからと言って、あっさり切れるというものでもなく……。
「熟したトマトもつぶさずにきれいに切れるとか、かまぼこの板もすっぱりこの通りみたいな宣伝の包丁みたいなやつ?すごく切れる包丁ってこと?」
ハンノマさんの包丁すごい。
って、関心してる場合じゃない。
続き、続き!
もう一度、今度は片手で包丁を持ちクラーケンの足の切り口に差し込む。
すっと入る。そしてそのまま下に移動させるために動かす。
スパーン。
ん?
んん?!
下まで切れました。
うええ?
引き抜いて、別の場所に差し込んで下に動かす。
スパーン。
……刃が当たってないところも切れてます……。
な、なにこれ。
ちょ、怖っ!
そ、そういえば、攻撃力がなんかすごくついてたけど、え?
こ、攻撃じゃなくて、料理なんだけど。
これ、指とかちょっと当たったらスパーンってやつ?
と、とりあえず今は料理。
こんな大きなクラーケンを簡単に切れてラッキーだと思わないと。
今度は包丁を入れて、横に動かし。
スパーンっ。
「あーーーっ!」
手を添えているほうに動かしちゃった。
手、手、手が!手が切れる!
惨劇に両目をつむる。
……切れ味の良い刃でけがをすると、切れたことに気が付かないというけど、本当だ。痛くない。
って、痛くなくたって、たって……。
だらだらと血が流れているところを想像して目を開く。
ご覧いただきありがとうございます。
ふふふ、出ました!包丁!
伝説のドワーフの鍛冶師の弟子が作った包丁です。どんな包丁なのか!
明日は水曜なのでお休みなのでございます。




