109 またまたクラーケン!
だから、残ったんです。捨てようとも思ったんだけど、食材を無駄にすると罰が当たりそうなので、アレンジしたらなんとかならないかと思ってそのまま取っておいたんですよ。
「軍医さん、軍医さん、物は食べられそうですか?」
「あ、ああ。下半身に力は入らないが……」
「えっと、まずいんですけど、あの、効果があるかどうかも分からないんですが、食べてみてもらえますか?」
人体実験にするみたいで本当に申し訳ない。
でも、一応、まずいとはいえ、食べ物なので、えーっと、死ぬようなこともないし……。
「ん?まさか、薬か?」
「薬っていうか、えっと、なんていうか」
タコバジル?
うまい言葉が見つからなくて、嘘もつけなくて、困った顔をして首を傾ける。
「薬の効果をこの身で確かめることができるのであれば、なんであろうと口にしよう。それで皆を助けられるなら」
ニコッと笑うと、軍医にとっては得体のしれないものであろうタコバジル、ローファスさん作のまずいやつを、何の躊躇もなく口にした。
ああ、漢らしい。
「うっ」
あああ!ま、まずいからうなったの?それともなんか、コカトリスだっけ?コカトリスの毒に侵された人には効果がないとか、逆によけい悪くなるとか……。
副作用!
薬の飲み合わせでも副作用とかあるし!
そこまで考えてなかった!
どうしよう!軍医さん、死なないで!
み、水。
胃洗浄とか?とりあえずはいてもらう……?
おろおろとしていると、ポンっと頭に大きな手がのった。
「良薬口に苦しとはよく言ったもんだ。とんでもないまずさだったが、驚くほどの効き目だ」
軍医さんがけろりとした表情でウインクした。うおう、50代に見えるダンディなおじさんのウインク、破壊力あります!
「もうすっかり立てるようになった。今のはいったいなんだ?」
ほっ。
利いたんだ。
ってことはタコバジルを使えば、みんな助かる!
どーんと畑に影を落としているクラーケンの頭を見る。
これだけ大きなタコがあるんだもん。
千人分でも二千人分でも作れる。……あ、バジルは足りるかな?畑を思い出す。それなりにわさわさと生えていた。
問題は、歩けない人たちにどうやって食べてもらうか……だ!
軍医さんの手を取って、二人でダンジョンに戻る。
「え?どういうことだ?ああ、最上級毒消し草を使ったのか?とりあえずよかった。原因はコカトリスだと判明したんだ」
サーガさんが軍医さんに話しかける。
「コカトリスの毒……?それを消す薬を飲ませてくれたのか?さぞ高いものだろう?」
軍医さんの言葉に、残ったローファスさん作のタコバジルの乗った皿をみんなに見せる。
「そうでした!ユーリさん!最上級毒消し草よりも、はるかに効果のある毒消し草を僕たちは見つけたんでした」
ブライス君たちは、知識がありすぎるがゆえにいろいろな情報が頭にあふれてその中から有用な手段を取捨選択するのに思いつくのが遅れたのだろう。
私は知らないことばかりなので逆にこれしか思いつかなかった。
私ができること。
「作ります。タコバジル……クラーケンとバジルの料理を、私、作ります。それを、どうか皆に食べさせてあげてください」
私の言葉に、ローファスさんが私の体を持ち上げた。
ちょっ、高い高いはやめてって!
「でかしたユーリ!」
ぐるぐる回らないでー!
「ちょっとローファスさん、ユーリさんを放してくださいっ!ローファスさんはあちこちに倒れている冒険者を探して1か所に集めてください。サーガさんは同じく兵を何か所かにまとめて集めてください。軍医の……あなたは、街に行って状況を報告してきてください。王都への連絡もお願いします」
ブライス君がてきぱきと指示を飛ばす。
「おまえはどーするんだブライス」
ブライス君がふっと笑った。
「僕はコカトリス討伐に向かいます。敵索魔法で探します。コカトリスを放置したままでは問題は解決しませんから」
「敵索まで……か。本当に規格外だな、お前は。よし分かった。俺は冒険者も兵も見かけた人間を1か所に集めていく。料理ができ次第運んで皆の口に放り込む。で、回復した人間から、コカトリス殲滅とほかに森の中に倒れている人間がいないか探すのに回ってもらう」
「ええ、私もそうします。それからユーリさん、料理に必要なものは軍の物資からも使っていただいて構いません」
サーガさんの言葉にブライス君が反応を見せる。
「軍の物資を使わせてもらえるのなら、MPポーションをいくつかください。敵索を広範囲で長時間使い続けるとMPがさすがに足りなくなると思う……上級は飲めませんので中級と初級で」
いつもありがとう。
クラーケンが役に立つのぉ。
いいかげん、タコタコタコタコ書き続けてるんで、そろそろたこ焼きと酢だこが食べたい。
明日は日曜なのでお休みです。