黒のハズレポーション
「装備の点検」
装備?服装。ほつれている個所穴の開いている個所はないか。そこがどこかにひっかっかって大けがにつながることもある。ローファスさんのように鎧など身に着けるようになれば、止めている紐に傷みはないかなどチェック項目も増えるらしい。
ダンジョンに入るときには常に万全の準備をする。
そして生きて帰る。そのために何をすべきかというのを、ポーション畑でしっかり身につける。
勉強になります。
靴の汚れ一つで足元を見られることもあると、主人の靴はいつもきれいにしていた。yシャツも毎日きっちり糊付けアイロン。スーツも帰ったら匂い除去スプレーしてズボンはプレスしてしわ取り。
ふと思い出して苦笑い。
「武器の点検」
武器といっても、スリッパもどきだけど。みんな真剣に見ている。
もうちょっとこう、生え叩きみたいに柄の長いしなる何かがあるといいのになぁ。
いや、実験するから板か。板があるといい。
「ブライス君、私、新しい武器が欲しいんだけど、大きな板ないかな?」
「ないです」
ですよね。大きな板とか無駄に置いてある家を私は知らない。
「ステータス確認」
みんながステータスオープンとつぶやいた。けれど、何も見えない。もしかして本人にしか見えない?
「ステータスオープン」
私も真似してみる。
うん、レベル1のままだね。
「お?朝から体力が1減ってる。いつもはMaxなのに。そうか。畑まで行ったからか……」
カーツ君が少し驚いた顔をした。
体力ってHPって項目かな?えーっと、10分の7になってます……あはは。朝からもう体力30%消耗したってこと?……こ、これは、大丈夫なのか、私……。
「ダンジョンルール」
「ああ、万全の体調でダンジョンに臨むべし。大丈夫だよ、食事が終わるまでには回復するさ」
なるほど。体力減った状態でダンジョンに入るなんて命を縮める行為ってことね。私も、回復するかな……。
「よし、チェック終了」
ご飯はまだ炊けそうにない。いつもならこの後パンかじってすぐにダンジョンかな。申し訳ないです。
「お姉ちゃん、今のうちにハズレ瓶片づけよう」
キリカちゃんに手を引かれて、昨日のハズレポーションを置いた場所に連れていかれた。
ううう。もしかして、私、5歳児レベルどころかもっとレベルが低いかもしれない。5歳くらいの子にいろいろ教えてもらっています。
経験値で言えば、こっちの世界は0歳児なので仕方ありません。冒険者としても1年生です。
瓶はそのままにしておいても消滅したりしない。中身を捨てると瓶が消える。つまり、ゴミを増やさないためには中身をいちいち出さないといけないってことで。数が増えるとめんどくさいので、ハズレか当たりかを見分けて、子供たちはハズレポーションには手を伸ばさないそうだ。
ただ慣れるまでは薄暗い洞窟内では見分けにくいハズレもあるので、迷ったときは取っておくらしい。私みたいに「黒くて明らかにハズレ」を持ってくることはすぐになくなるようだ。
二人で次々にハズレポーションのふたをあけて中身を捨てていく。
最後に残った黒いハズレポーションを、キリカちゃんがとぷとぷと捨てていくのを見て、ふと思った。
毒じゃないけど吐くほどまずいてどんな味なんだろうか?
なんて考えていたら、おいしそうな匂いを感じる。
はー。おいしそうだなぁ。
「え?」
ちょっと待って、この匂いって、おいしそうだと思うこの匂いって!
「キリカちゃんストップストップ!」
瓶を逆さまにして中身を出しているキリカちゃんの手を止める。
手の平サイズの瓶の中には、1センチほど液体が残っていた。
黒いハズレポーションからかすかに伝わるこの匂い。
ハズレポーションは吐くほどまずいし、回復能力はないと言っていた。だけど、毒でもないと。
だから、うん。
黒いハズレポーションを少し手にたらして口に近づける。
「お姉ちゃん、まずいよ。黒いのは一口飲むとのどが痛くなるくらいひどいんだよ。のどが渇いてても絶対に飲んじゃダメだって言われてるんだよ」
キリカちゃんが止めようとしているのを大丈夫と笑顔で返して、ぺろりと手の平の黒いのを舐めた。
「あああーーーっ」
「だ、大丈夫?お姉ちゃんっ、キリカお水持ってきてあげるっ」
ガシッと、キリカちゃんを抱きしめる。
「心配してくれてありがとう。大きな声出してごめんね。違うの、違う、うれしくて出た声よ」
はーっと、大きく息を吐く。落ち着け自分。
「これ、ハズレじゃないよ、大当たりだよ!」