106 軍医の涙
あ、ダメ、来た道を戻るような逃げ方しちゃだめだ。前に、前に逃げなくちゃ。
少し走ってから振り返る。
いない。
よかった。
今の、蛇だよね。
あー怖かった。毒蛇にかまれたりなんかしたら大変だ。
ん?毒蛇にかまれたら大変?
毒には、毒消し草があれば平気なのかな?え?あるの?軍は持ってる?
あ、でもバジリスクの毒には伝説のバジルがどうのとか……。
「ステータスオープン」
解毒作用に強の文字。
「ラッキー!」
お昼のおベントにもクラーケンとバジルの和え物食べたんだった。
「怖くない。毒蛇なんかこわくない!」
にょりょりと目の端で細長いものが動いたような気がする。
「ぎゃーーーーーっ、やだぁ!へびぃ!」
ダッシュ。
はぁ、はぁ、はぁ。毒は怖くないけど、蛇はやっぱり怖いっ!
ああ、息が切れる。走るとダメだって思ってウォーキングペース保ってたはずなのに。
ぜー、ぜー、ぜー、で、でも大丈夫……。もう、小屋まであともう少し……。
「ユーリさんっ!」
「あ、よかった、ブライス君……」
目の前にブライス君の姿を見つけ、ほっとして足が崩れ、膝をついてしまった。
「ユーリさん!まさか、ユーリさんも発症したんですかっ!」
ブライス君が慌てて私に駆け寄ってくる。
「え、あ、のど大丈夫だし、違う。ちょっと疲れただけで……あの、ブライス君は大丈夫なの?」
ブライス君が力強く頷いた。
「キリカとカーツは?」
「あ、そうだ!街から戻る途中に、兵がやってきて、謎の伝染病が発症したから街の人間に避難をしてもらわないとって……キリカちゃんとカーツ君は街へ知らせに行ったの。あの、私はそれを知らせに来たんだけど……ブライス君なら空に文字を打ち上げて街に知らせられるかと」
ブライス君はすぐに空に向かって光る文字を放った。
「距離があるから気が付いてもらえるかわかりませんが……ユーリさんも町へ避難を……と、言いたいですが」
ブライス君の表情がゆがむ。
「送っていく余裕も今は……」
「どうなってるの?教えて?」
ひゃっ。
「よかった、ユーリ無事か。おい、ブライス、こんなところで立ち話は危険だ。移動するぞ!」
う、え、え!
ちょっとどっからローファスさん現れたんでしょう!膝をついて座っていた私をあっという間にお姫様抱っこして走り出した。
振り向きざまにブライス君に言葉を残しながら。
で、いつものダンジョンです。はい。
ゴキスラ出てきたので叩いたら、運よく当たりポーションが出てきました。
「いただきます」
ごくごく。
「キリカとカーツも無事なんだな。どうしたらいいか……」
ダンジョンの中には私とブライスくんとローファスさんとサーガさん。それから見知らぬ人が一人だけいます。
「軍は僕を残してほぼ全滅です。皆動けるような状態にはない」
サーガさんが現状をローファスさんに報告している。見知らぬ人がそれを聞いて涙を流す。
「ふがいない。軍医でありながらこれほどの病が蔓延するまで見過ごしてしまうとは……。そして、治療法すらわからぬままで……」
ああ、軍医さんなんだ。
「中級ダンジョン内の人間は無事だが、外に出ていた人間はだめだ。同じようにのどの違和感を訴えすぐに立ち上がることもできなくなった。で、初めに症例が見えた人間はどうなってるんだ?」
軍医が口を開く。
「昨晩、一人目が確認されたと報告を受けた。本部から距離を置いた場所だったので、症状を聞いて治療に必要なものをまとめているときに、それから何人も同じように倒れたと報告を受けたので、伝染病を疑い隔離処置を行おうと思っていたところ……」
「驚くような速さで次々とうつっていったということですね」
ブライス君の言葉に軍医がうなづいた。
「まだ、生きてはいると思う。死者が出れば空に赤い煙が上がるは……うっ、サーガ隊長、……失礼しま……」
軍医がそこまで言うと、口を押えてダンジョンを出ていった。
ダンジョンから出て、数歩動いたところで、すぐに座り込む。
「彼も発症してしまったのか……」
いつもありがとう!
今日の天気はどうかな。
そういえば、作中では雨がふりませんな……。
よく考えると、他の作品でもめったに雨はふらないですな……。
……失恋とかそういう悲しい場面が出てこないと雨が降らない不思議。よし、雨、降らせよう、そのうち。
明日は休みです




