105 ローファスさんなら
馬車も馬もそのままにして、小屋に向かって歩き出す。
走らない。初めに走って体力消耗して立ち止まって休憩するよりも、ウォーキングペースで歩いて進んだほうが絶対に早く着く。焦るな。
「おい、だめだ、そっちに行くな、危険……だ」
兵が私を引き留めようと声をかける。
もう、知らせに来た兵も、荷馬車に乗っていた二人も、足に力が入らないのか立ち上がることができずにいた。
それでもまだ、意識がはっきりしていて、私のことが見えてる。
私の身を心配して声も出せる。
脳に影響が及んでいるわけではない?
「ありがとうございます。大丈夫です。うつるならもうとっくにうつってます」
たぶん。
いや、もしかすると、兵たちはかなり前に感染していて潜伏期間で症状が出ていなかっただけで、このタイミングで次々症状が出始めたのかもしれない。
だとすれば、私もうつってしまったかも。とすると、キリカちゃんとカーツ君を町に向かわせたのは、保菌者を町に入れちゃうことで……って、ああ、もう兵も入った後か。考えても仕方がない。
やれることやるんだ。
ブライス君はローファスさんとスタンピートをおこしたダンジョンの様子を見に行くと言っていた。二人の速度なら、もう小屋の周辺を探してもあえないかもしれない……。
フルフルと頭を横に振る。
どちらに慕ってあそこにとどまっていても仕方がないんだ。二人が見つからなければ、兵が3人倒れたて馬車もそのままになっているとサーガさんに伝えないと。
いろいろと考えだすと不安ばかりが頭をよぎる。
そのサーガさんは大丈夫なのだろうか?一瞬にして立てなくなるような伝染病って何?
日本では麻疹の流行が問題になっていた。大人になってからかかると、気が付くと動けなくなっていて救急車を呼んでなんとか助かったというような話も聞いた。昔は、子供の選別。麻疹で生き残って初めて誕生のお祝いをするという地域もあったそうだ。でも、今は予防接種で防げる。一度かかってしまえば二度とかからない免疫が得られる。
……って、麻疹であるはずはない。軍医がわからないと言っていたそうだし。さすがに麻疹なら見たらわかるよね。
ああ、そういえば、この世界の薬はどうなっているんだろう。
毒消し草があるというのは聞いた。
病気の薬は?
体が弱っているときはポーションなんだよね?栄養ドリンクみたいな役割だと思っていいのかな?
病気の薬はどうなっているんだろう?怪我の薬はどうなっているんだろう?
治癒魔法みたいなものがあるんだろうか?
もし、治癒魔法があるなら、覚えたいな。レベル10になって覚えたい魔法は、氷を作る魔法と治癒魔法。
あれ?でも治癒魔法があるなら、軍にも魔法使える人いるよね?モンスター退治に来たんだし。さすがに治療できる人も配置するはずだ。
……分からない。
分からないのに、いろいろと考えてしまうのは、歩いているから。
一人でただ歩いているだけだから。一本道で迷子になることはないけれど。
「あ!」
今、木々の間によく知っている鳥が見えた。
少し速足で、その鳥が見えた場所に近づく。
残念もう、見えない。
おっと、寄り道している余裕なんてないんだ。
また前を向いて歩きだす。
今度は、左右の景色を見ながら進んだ。また、いるかもしれない。
いたら、ローファスさんに頼んで捕まえてもらおう。
あ、ちゃんと頼まないとね。捕まえてきてほしいなんて言い方だと、ぽたぽた血を垂らした状態でほいっと差し出されそうだ。
違う!食べないの!
殺さずに生け捕りで連れてきてほしかったの!
……まぁ、食べてもおいしいんだけど。
今見たの、鶏だと思うんだ。低い位置をずんぐりした体が横切るのが見えた。
「あ、いた!」
ひょこひょこっと、頭についているトサカも見えた。
やっぱり間違いない。鶏だ!
やった!
これで、卵が手に入る。トサカがついてたから、今のは雄鶏だよね。雌鶏もどこかにいるよね?いなきゃ繁殖できないもん。
立ち止まって見ても仕方がないので、歩く速度は緩めない。
どうせ、追いかけたって私には捕まえられない。いや、何時間か頑張れば捕まえられるかもしれないけど。そんな時間はない。
この辺にいたということだけ記憶しておけばいい。
「うっ、うわーっ!」
ダッシュ。
この小説が、誰かを少しでも元気にしてくれますように。
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