104 伝染病
「おい、どうした?大丈夫か!」
バタバタという足音。それから、もう一人も御者台から降りるような音。
何、何が起きているの?
「ち、近づくな……。うつるぞ……わからない、兵が次々と……まるで、伝染病のように……お前たちは逃げろ、うつる前に。それから、街に避難を呼びかけてくれ……病の広がりを……」
伝染病?
兵が次々と?
がさがさと荷をあさる。布巾に使えそうな布を何枚か買った。
「キリカちゃん、カーツくん、これで口を覆って!」
マスク替わりだ。どれだけ効果があるかはわからないけれど、ないよりはましだろう。
まるで忍者とかカウボーイのように布で口元を覆い、後ろで結ぶ。私もすぐにそうした。
「うっ、なんだ、これは、のどが熱い……」
御者の一人の声。
「ああ、もうお前もうつってしまったのか。皆はじめにのどに来る。頼む、これ以上感染を広げるわけにはいかない。来るな、そして街に避難を……」
という声に、もう一人の御者の悲痛な声が聞こえた。
「ああ、俺もの喉に違和感を感じる……。医者は、軍医はなんと言っているのだ?」
「これほどの感染力のある病は聞いたことがないと……。モンスターからもたらされた新しい病かもしれないと。今のところ命を落とした者はいないが……どうなるのか分からない」
何てこと!
私も、日本でも聞いたことがない。少し話しただけでうつり、そして潜伏期間ほぼセロですぐに症状が出る病気なんて!
「頼む、お前たち、聞こえていたか?子供たちにこんなことを頼むなんて申し訳ないが、症状がないのなら町へ伝えてくれ……」
キリカちゃんとカーツ君の手をぎゅっと握る。
私の喉は大丈夫だ。
「喉は、おかしくない?」
「大丈夫」
「キリカも!」
こくんと小さくうなづく。
「町へ知らせに行こう!」
馬車で進んできた道を見る。この道を、私は町まで歩いていけるだろうか?
馬車の進む先を見る。クラーケンの頭が見える。町よりは近いはずだ。
今現在、私もカーツ君もキリカちゃんも症状はない。うつるならとっくにうつって症状が出ているだろう。それがないのは……。
マスク替わりのこの布が効果があるのか。
もしかすると、私は日本で打った何かの予防接種が聞いているのかもしれない。
「ごめんね、カーツ君、キリカちゃん、二人に任せていい?街に知らせるの。たぶん、このカード見せたらだれか話を聞いてくれるよ」
ローファスさんから預かっている黒いカードをカーツ君に持たせる。
「ギルドに伝える。ユーリ姉ちゃんはどうするつもりだ?」
「私は、街まで歩く体力に自信がない。急がないといけないのに足手まといになっちゃうから……。私、ブライス君を探してみる」
ブライス君が一度だけ見せた魔法。
サーガさんが便利だなぁ軍に欲しいと言っていたあの魔法。
空に文字を打ち上げたあの魔法。
「ブライス君に空に町に伝えるメッセージを打ち上げてもらえないかと思って……ここから小屋までなら私でも歩いていける」
「わかった」
カーツ君がうなづく。
「キリカ、キリカもユーリお姉ちゃんと行くっ!」
「だめ、お願いキリカちゃん。病気がうつるといけないから、街に向かって!それに、もし、途中でカーツ君が喉がおかしいと言ったら、キリカちゃん一人でも街に向かって伝えてほしいの。道の途中で誰か会えば、その人にお願いしてもいい。とにかく……ごめんね。お願い」
日本では、こんなこと子供たちに頼んだりしない。
子供たちだけで外に遊びに行かせることすら怖いもの。
5歳に見えるキリカちゃんに一人になっても町に行ってなんて……。
私は、ひどいことを言っている。保護者という立場であるはずの私の体力がないせいで。
情けない。
ひどい人間だ。
最低だ。
二人が心配。だけど、町の人たちにこれ以上感染を広げるわけにはいかない。もし、命にかかわるような病であれば……。これだけの感染力があれば、あっという間にみんな死んでしまう。
ふと、馬の様子はおかしくないことに気が付く。
人間だけに感染する?
そういえば鳥インフルエンザだとか豚インフルエンザだとかあったけれど……。
馬に乗れれば、小屋まで早くたどり着けただろうけれど……。
乗馬も教えてもらおう。できることは何でも教えてもらうんだ。
ご覧いただきありがとうございます。
とりあえずまとめて予約してあるのはここまでとなりまして、えっと、うーんと、です。
とりあえず明日の日曜は更新ありません。