99 包丁?
……えっと鍛冶の腕を自慢してませんでしたっけ?ゴムを使った武器なんて子供の遊び道具ですよ……。パチンコっていう……。いや、まてよ、スリングなんだっけ、なんとかって武器もあるんだっけ?猟には使える程度の威力があるとか?ん?興味がないからあんまり真剣に聞かなかったけど、なんか猪の話の彼の話とかで友達に聞いたような。
「嬢ちゃんもっと詳しい話を聞かせてくれぬか?」
詳しい話って、いや、本当に知らないんですけど……。
とりあえず、輪ゴムをピースにした指にはめて、引っ張って手を放して見せた。
「こんな感じで、ワイ字の……えっと、なんかゴムの戻る力で石とか飛ばすやつ……というくらいしか知らなくて」
「お、おお、おおおおっ!」
おじさん……ハンノマさんって言ったっけ?ハンマーに似た名前。うん、ハンマー片手に鍛冶してるハンノマさんね。
「そういうことか!そういうことか!ここに、こうじゃなっ!」
紙を小さく丸めたものをゴムに充てて、指にかけたゴムを引っ張り飛ばした。
「え、ええ、まぁ……」
「うわー、おもしろいのっ!」
キリカちゃんのお目目がキラキラしてきました。
「なるほど、ゴム1本より2本、強さが違ってくるようじゃな。ふむ、これを腕くらい太くすれば相当強いものができるということか!
腕?それ、キリカちゃんの細い腕じゃなくて、ハンノマさんの私のウエストくらいありそうな腕のことかな?そんな太いゴムなんて引っ張れるんだろうか?
まぁいいや。いろいろ研究するんだろうし……。
「よし!さっそくゴムの木を探しに旅に出ることにするぞ!ありがとう、ありがとうな嬢ちゃんっ!旅に出るので休業中と」
紙に文字を書いて店の表に張り付けた。
「休業……?」
ぼそりとつぶやくと、すでに旅に出るための大きなリュックを背負っていたハンノマさんが立ち止まった。
リュックに旅の荷物が詰められているのであれば、しょっちゅう旅に出ているということだろうか……なら、まぁ、うん。私のせいで休業じゃないよね。うん。
「そうじゃった、ナイフを買いに来たんじゃったなほれ、坊主にはこれがいいじゃろう。ちっこい嬢ちゃんにはこれだな」
カーツ君には今まで使っていたよりも少し長いナイフが手渡された。剣ほどは長くないけれど、ナイフよりは長い。あ、もしかして短剣?そうだ、短剣だね。
キリカちゃんには、ナイフはナイフでも少し刃の幅が細いものだ。うん、今までのものより軽くて持ち運びが楽になりそうだね。
「それから、嬢ちゃんには」
ハンノマさんが私の顔を見た。
「あ、いえ、私は武器を買いに来たわけじゃなくて、料理の材料を……」
「料理か?じゃぁ、これじゃな」
ほいっと渡されたのは、包丁です。
「あ……すごい」
切れ味は試してないからわからないけれど、手になじむ感じがすごい。それに、これ……。
刃の部分に波紋のような模様が見える。これ、よい刀に現れるっていうそれじゃない?鉄を何度も叩いて鍛える刀の作り方で作った包丁っていうこと?
「ふむ、この包丁のすごさがわかるのか。気に入った!」
「おじさん、これ幾ら?予算が大銀貨7枚しかないんだ」
「キリカも……気に入ったけれど大銀貨5枚でそろえないといけないの」
「お前たちも小さいのにわしの作ったものの良さがわかるのか!フハハハハっ。いいぞ、今回はその金額で売ってやろう。将来出世したらまた買いに来てくれよっ!」
ハンノマさんいい人だ!
いえ、でも、それで商売成り立つ?
旅に出て休業しちゃうんだよね?
「あの、包丁はちゃんとお金取ってくださいね。えっと、料理に必要なものなら、使えるので……」
黒いカードを手に取る。
「ん?黒カード?ステータス表示、なんじゃローファスの坊主のカードか。それなら遠慮なく包丁代ももらっておくかの。とはいえ嬢ちゃんにはゴムを教えてもらった借りがあるからの。特別価格じゃ」
短剣大銀貨7枚、ナイフ大銀貨3枚、包丁金貨1枚と言いながら、ハンノマさんが首から下げたカードを黒カードに押し当てた。
ステータス表示に、何か文字が増えていき、数字らしき部分が書き換えられる。
「これ、もしかして何にいくら使ったのかって、記録されるんですか?」
カーツ君がにぃっと笑う。
「そう。ユーリ姉ちゃん知らなかったんだね。色付きカードだと記録が残る。だから何をいくらで買ったのか証拠が残るんだ」
「そっかぁ、すごい便利だね。無駄遣いせずに済むし、家計簿つけるのも楽そう!」
レシート替わりにもなるなんてすごい!あ、違うか。確かクレジットカードなら利用明細が出るんだっけ?
「フハハハッ。無駄遣いか。まぁ、無駄遣い防止といやぁ、無駄遣い防止だな。無駄に値段を吹っ掛けられずに済むのも節約といやぁ節約か」
値段をふっかけられる?
「吹っ掛けられるのは困りますけど、でも、あの、お金がないからって商売抜きに安くしなくてもいいですからね?人が良すぎて店がつぶれるようなことがあっては申し訳ないですからっ」
うひゃっ。
ご覧いただきありがとうございます。
えー、日曜は休みなので、次は月曜となります。