98 ダイヤとタイヤの関係
婚約指輪のダイヤを見た友達が言っていた言葉を思い出す。
「ダイヤかぁ、同じ炭素をもらうならこっちのがいいや」
友達が靴底を指さす。
「え?おんなじ炭素?」
「そ。ダイヤが炭素でできてるってのは知ってるよね。靴底のゴムってさ、ゴム樹皮に硫黄と炭素を混ぜて作るんだって。だから黒い」
「へー、そうなの?知らなかった!そっか!炭素を混ぜるから黒くなるんだ!すごい!」
で、なんでダイヤは黒くないんだろうって言ったら、じっくり1時間は説明された。
「えっと、炭素……真っ黒な炭と、硫黄……黄色くて臭い火山とか、なんかそういうのを混ぜるって聞いたことが……。これ以上は分からないので、ごめんなさい」
おじさんがメモを取り出す。
「木、木か!しかも、木から出る樹液とは……!盲点じゃ!素材といえば、モンスターか動物か、植物ならそのまま使うかしか……どんな木なのじゃ?」
「ごめんなさい、それ以上は知らないのです……あ、観葉植物でも人気って聞いたことが……」
「観葉植物?」
「あの、葉っぱがつやつやしてるから人気があるとか……あと、樹液の色は白っぽいはずで……」
大興奮の様子のおじさんは、私の靴底の匂いを嗅ぎ始めた。
んぎゃーっ!乙女の靴の匂い嗅ぐのは立派な変態ですっ!
「か、返してくださいっ!」
手を伸ばしておじさんから靴を奪い返そうとしたら、素早い動きでかわされてしまった。
「売ってくれ!この靴を!」
「無理です、いやです、だめですっ!」
「嬢ちゃんの故郷はどこじゃ?そこに行けばゴムが手に入るのか?」
うぎゃ、やばい。
「こ、故郷は……どこにあるのかわかりません。覚えてないんです……」
「そうか……じゃぁ、やっぱりゼロから探して作らねばならんじゃろう?見本としてどうしてもゴムが欲しいんじゃ!」
ゴムの木を探して、ゴムを作るの?
ゴムがあれば……。
車輪にゴムを使ってタイヤを作れたら、ずいぶん馬車の旅も楽になるんじゃないかな……。
それはありがたいかもしれない。
でも、だからと言って……
「靴がなくなると困るんですっ!」
匂いをかがれるのも乙女として、乙女として……。もう三十路だけど、乙女とあえて言わせてもらうけれど……。
「売ってくれたら、わしの作った武器を売ってやるぞ?こう見えてもわしは武器界では伝説ともいわれる鍛冶の腕前を持つ」
伝説の腕前?
「ドワーフのバンルカを師匠に持つ、ハンノマじゃ」
って、師匠が伝説なのか!いやいや、師匠が伝説的腕前だからって、弟子まで伝説的腕前とは限りませんよね?
「なんだか、よくわかりませんが、あの、やっぱり靴はごめんなさい」
ズボンのポケットをがさがさとあさる。
あった。
やっぱり持ってた。
癖で、いつも手首に輪ゴムはめちゃうんだけど、みっともないからやめろと何度も主人に注意されて、ポケットに入れるのが癖になった。
つまり、ポケットの中には輪ゴムが何本の入ってたりするんだよね。つい、つい、入れたまま洗濯もしちゃう。
4本ありました。片方のポケットだけで。何かの役に立つかもしれないから、2つは取っておこう。
「これもゴムです」
びよーんと輪ゴムを伸ばして見せる。
「おお!なんじゃこりゃ。こりゃまたすごいの!」
「ゴムの樹液に混ぜる炭素と硫黄の配合を変えると硬さとか強度とかいろいろ違ったものができるらしいんですがえっと、本当に、私はこれ以上のことは知らなくて……」
「こ、これを差し上げますから、あの、二人に武器を見せてくれませんか?」
おじさんは、もう輪ゴムに夢中で、こちらを全くみない。
引っ張って伸ばして手を放してぱちーんとなるところもまた楽しいようで何度も伸ばして遊んでいる。
「あんまり引っ張りすぎると切れますよ?」
ぷちっ。
ほら、言わんこっちゃない。
「これ、もっと太くしたら切れにくくなるのか?」
「太くしたらその分引っ張るのに力がいるようになると思います。あ、それを利用した武器もありますね」
おじさんが上を向いた。
「武器!新しい武器じゃと!」
いつもありがとう。
そうか。炭素つながりなのか……