97 靴脱げた
カーツ君が持っていたナイフと違い、束の部分に彫り物があって、小さな石がはまっているなど装飾が施されている。明らかに違うのに見間違えるなんて。
「目は大丈夫ですか?」
よほど目が疲れているか、視力が落ちているか。
目の疲れにはブルーベリーが有名だけど、ほかに小豆やホウレン草ブロッコリーにレバーや卵黄、ニンジンかぼちゃいちご、豚肉とかいろいろあるんだよね。
主人が仕事で目が疲れると言っていたので、調べていろいろ作っていたけれど。まだこの世界で見てない食材がいろいろあるのであるといいなぁ。
見たことのあるものは、豚肉……は猪だから効果があるか不明か。ニンジンはあった。ほうれん草もあったかな。
「あの、ニンジンやホウレン草を食べると目の疲れが少しよくなりますよ?」
と話かけたら、店主がずさささとまた後ずさった。
カーツ君が手に持っていたナイフをテーブルの上に置く。
「ユーリ姉ちゃん、ほかの店も見てみようぜ」
「あ、うん。いいの?それは買わなくて?」
「うん。装飾が邪魔で重たくて使いにくそうだし、この店はなんていうか」
「ん?何?店主さん親切だったのに、気に入らない?」
カーツ君が店主の顔を見ると、店主は青ざめて首を横にふるふるふると振っている。
どうしたんだろう?
「ユーリ姉ちゃんが、ちょっと心配だ……」
カーツ君がはぁと小さくため息をついて、黒いカードを私の手にしっかりと握らせた。
「カードを素直に受け取れない店では買い物しちゃだめだ」
「あ、もしかして、カード決済ができないお店だった?そっか。現金持ち歩いてないからね。故郷でもあったよ。なんとかカードは使えるけどどこそこカードは使えない店とか」
カーツ君が微妙な顔をする。
「まぁ、うん。違うけど、まぁいいか、そういうこと、かな?っていうか、ユーリ姉ちゃんまじでいいとこのお嬢様で、買い物一つしたことなかったのかよ?」
え?違うけどそういうこと?意味が分かりません。
「そんなことないよ?安くて新鮮な野菜を買ったりしてたよ。目利きも、えっと、キャベツは真の部分が丸くて太いほうがおいしいとか、ミカンは後ろの部分が凸凹していたほうが甘いとか、いろいろ勉強したし」
次の店は長剣ばかりでカーツ君やキリカちゃんが扱えそうなナイフは置いてなかった。
なんだかんだで回ること5件目。
店に入ると
「誰じゃ!勝手に店に入ってきたのは!表に営業は4時からだと書いておいたじゃろうがっ!」
と怒鳴りながら、背が低くて髭の長い不愛想ながっしりした体躯のおじさんが店の奥から出てきた。
「ひゃっ、すいません、あの、文字が読めなくて。すぐに出ていきますっ!」
ぺこりと深々と頭を下げて、背を向ける。
すぽりんっ!
うわぁ!
慌てて踵を返して走ろうとしたため、床の小さなでっぱりに足を取られて、靴が片方脱げてしまった。
ショートブーツっぽい靴なんだけど、脱ぎはぎがしやすい形で長くつのように足を突っ込めばはけるものなので、脱げるのも簡単なのです。
「脅かして悪かった。子供なら文字も読めなくても仕方がないし、わしの店のルールも知らない糞冒険者というわけでもないようじゃからな」
キリカちゃんが私の前に歩み出た。
「あのね、キリカ達、ちゃんと文字覚えるの。だから、今日はまだ覚えてなくてごめんなさいなの」
その前にカーツ君が前に出る。
「冒険者の知識も今勉強しているところです。失礼はあやまります」
ぷははっと、おじさんは笑い出した。
「お前らはいい子じゃな。で、わしの店は武器屋だ。何しに来た?」
「あ、あの、この子たちの武器を探しています。えっと、ダンジョンにも入りますがまだスライムしか出ないダンジョンです。主に使うのは動物の狩りとか、解体です」
「ふむ、分かった。いつまでも座り込んでないでついてこい」
靴が脱げた拍子に膝をついていた私に、おじさんは脱げた靴を拾って渡してくれ……ませんでした。
「なんじゃ、こりゃ?」
靴をひっくり返しています。
「この靴底はなんじゃ?見たことがない素材じゃな。なんの皮を使っておるんじゃ?」
おじさんが靴底をぶにっと押している。
「弾力があるな。それに耐久性もありそうじゃ。こんな分厚い皮を持ったモンスターはそんなにいなかったはずじゃが……わしの知らない新種か?」
言われて、カーツ君やキリカちゃん、そしておじさんの足元を見る。
おじさんは木靴。カーツくんは革靴。……に、靴底だけ皮を保護するための木かな?キリカちゃんは布と皮。と、植物を編んだようにも見える。
ゴムなんてないのか。
日本と同じような野菜があったから、探せばどこかにあるんじゃないかな……と、ゴムについて知っていることを口にする。
「植物の樹液からできています。えっと、故郷では木に切れ目を入れて流れ落ちる樹液を集めて加工して使ってます」
お読みくださりありがとうございます。
はい。ユーリさん、靴脱げました。
*修正しました。樹皮を樹液に。
その先はちゃんと樹液って書いてた。たぶん動物の皮の話してたから、無意識で樹皮とか書いてたんだと思う……あるよね、そういうこと……。
というわけで、まさかのシンデレラが前フリになっていたとは誰も思うまい。ははは。
そして、これまた一つ言っておくと、シンデレラと書いた時点では、こんな展開にする予定はなかった。
出したものを後々つなげていって話が転がる執筆スタイルのため、がちがちにプロット組んで線路の上を走らせるのはニガテです。
人によって話の作り方はそれぞれなので、小説ってどう書いたらいいのかな?と思っている人は、とりあえずいろいろな方法試してみたらいいよ。台詞だけ書いてあとで地の分を足してく人もいるし、プロット組んでからの人もいるし、ノベルゲームのように選択肢をいくつか書いて選んでプロット組む人もいるし。キャラクターをしっかり作りこんでからの人もいる。
ん?何の話だっけ?
そうそう、ユーリさんたち、ちゃんと買い物できるかなぁ?