96 シンデレラとナイフ
「大丈夫ですよ。ちゃんと魔法付与されてますから。他の人は使えませんし、黒カードであればマップ魔法に表示されますから」
マップ魔法……ああ、そうなんだ。GPS機能みたいなのもついてるということなんですね。そう考えると、日本のクレジットカードなんかよりずいぶん高機能だ。ほかの人に悪用されないとか。うん。よかった。
「僕も軍のカードを持たされてますよ。ほら」
兵が見せてくれたのは真っ赤なカードだった。
赤は赤字のイメージ。黒のカードのほうがお金がたまりそうだ。黄色なら風水的に金運に恵まれそうだなぁ。とか、なぜかカードの色を見て思った。
「カードはみんな持ってるんですか?」
「いや。カード発行に結構なお金がかかるからね。冒険者でも持ってない人はいるよ。あとは商業ギルド発行のカードは商人ならほとんど持ってるかな。貴族も国から与えられたカードを持っているはずだよ」
発行手数料か。いくらくらいなんだろう。
頑張って稼いで持つんだ。まぁ、その前にレベル10にならないとだけど。
「いろいろ教えてもらってありがとうございます」
ぺこりと兵に頭を下げた。
「うん、ほかにもわからないことがあったら聞いてください。それから、鐘が鳴ったら戻ってください。荷物を積んで出発しますから」
「鐘が鳴ったらですね!わかりました!靴を片方落とさないように気を付けて来ます!帰りもお願いしますっ!」
親切な兵に手を振って、カーツ君とキリカちゃんと3人でお店が立ち並ぶ街の中心部に向かって歩き出した。
「靴は落とさないように?」
あ。つい、鐘が鳴ったら帰ってくるんだよってことにシンデレラを思い出しちゃったんだ。
「シンデレラっていう話が故郷にあってね」
「シンデレラ?どういう話なの?キリカ知りたい」
「ふふっ、そうだね。私の覚えているお話、寝る前にしてあげるね。今は買い物しようか。何がどこに売っているのかキリカちゃんやカーツ君は知ってる?」
二人ともよくわからないということだったので、お店が並ぶ通りが3つあるらしいので、その3つを端から順に見て回ることにした。
一つ目の通り。
武器屋防具屋がいくつも並んでいる。
カーツくんとキリカちゃんがさっそく選び始めた。値札なんてものはないので、気になったものは店主に値段を尋ねるしかないようだ。
むしろ、数字さえよくわからない状態なのでありがたい。
カーツ君がナイフの一つを手に取った。
「すいません、これ幾らですか?」
細い目の店主が現れて、カーツ君の手に持っているナイフではなく、私たち3人の身なりを上から下まで眺めて訪ねてきた。
「ご予算は?」
カーツ君が間髪入れずに答える。
「大銀貨10枚」
一瞬店主は息をのんだような気がする。
「そうですか、お客様はお目が高い。ちょうどそのナイフは大銀貨10枚でお出しできますよ」
と店主がカーツ君の手元のナイフに視線を落とす。
「ちょうど買える。あ、でもだめだ、防具も買わないといけないから、大銀貨10枚使うわけにはいかなかったんだ!」
うん。そうだね。よく気が付きました。
「じゃぁ、これは無理だね」
カーツ君が私の顔を見た。
「ほかのを探そうか。防具の予算はどれくらいで、武器にはどれくらい使うつもり?」
「うーん、防具って言っても、ダンジョン用っていうよりは狩り用ということだと思うから」
なるほど。そうだよね。ゴキスラ用なわけないか。
ってことは、ナイフも動物をさばくことを考えて品定めしてるのかな?
「防具に大銀貨3枚くらい残せばいいかなぁ?」
「っていうことは、ナイフは大銀貨7枚までだね」
というと、店主がぱぁーんと大きく手を打った。
「小さいのに、ナイフを持って狩りをしようという勇敢な少年に感銘を受けました!わかりました、特別にそのナイフ、大銀貨7枚でお売りしましょう!」
「え?まじで?いいの?」
「本当にいいんですか?」
いきなり3割引きとか、大丈夫なのかな?原価割れたりしてないかな?
「ありがとうございます、では支払いはこれで」
真っ黒なカードを取り出して店主に差し出す。
すると、店主はざざざざっと後ずさって、カードから距離を取った。
「もっ、申し訳ありませんっ、わ、わ、わたくし、ちょっと今、目が疲れておりました。よ、よく見たらほかの商品と間違えていたようですっ」
「大銀貨7枚ですと、このあたりのナイフがお求めいただけます。少年の手に持っているものは、うっかりしておりました。大銀貨ではなく銀貨7枚でしたね……はは、わ、私としたことが……」
カーツ君の手からナイフを取ると、棚から出したナイフを代わりに握らせた。
ご覧いただきありがとうございます。
まさか、このシンデレラの前フリが、あんなことになろうとは……謎