94 ドナドナされていきます
「ユーリさん、文字を覚える目的以外に、欲しい本はありますか?文字が読めるようになるまでは必要ないかもしれませんが。せっかくなので転写魔法で複写してきますよ?」
ま、魔法!
複写って、コピー機みたいなのがあるんじゃなくて、魔法かぁ!
なるほど!印刷技術が発達してるしてないの前に、便利な魔法があるんだ!
「えっと、だったら、料理とかの本があれば……あと、この国の常識が学べる本とか?」
「わかりました。では、ローファスさん、いつ家に行きますか?」
「そうですね兄さん、ちゃんと事前に両親にも言わないといけませんし、日程を詰めましょうか」
ふおう、文字を覚えるための本一つが大事になってきました。
「ユーリお姉ちゃん大丈夫?」
「無理しなくていいよ。一人になりたいなら、買い物は俺とキリカで行ってこようか?」
うりゅり。
両手を広げて二人をぎゅー。
ああ、子供のいい匂い。ちょっと汗臭いけど。
「大丈夫だよー。ごめんね。びっくりしたね」
親を恋しがって泣くなんて。カーツ君だって両親を亡くしてるし、キリカちゃんだってお母さんがいないのに。
「あのね、私、本当に今、幸せなんだ。だから大丈夫だよ。えへへ。さぁ、朝食の片づけをして、お弁当作りましょうね。カーツ君の炊いてくれたご飯で」
「わーい。何作るの?ユーリお姉ちゃんっ!キリカ手伝うよ!」
何を作るのか……。
朝食の食器をみんなで洗いながら考える。
「うーん、町で食べるんだとすると、ポーション料理は持って行かないほうがいいよね。だったら、使えるのは……」
ご飯。
パン。
ジャガイモ。
いろんな野菜。
クラーケン。
……そして、塩。
こりゃ、塩むすび一択ですね。せめて海苔でもあるとおいしさ10倍なんだけど。仕方がありません。
仕方がないなんて言ったら塩むすびに失礼か。塩むすびもおいしいんだよ!
3人でおにぎりを握っていると、話し合いが終わったのかサーガさんとブライス君とローファスさんが食器を片付け始めた。
あ、急がないと。
塩むすびを9個急いで握る。
大きな葉っぱに3個ずつくるんで、追加でおにぎり5個。一つずつ葉っぱにくるむ。
「ローファスさん、ブライス君、しばらく小屋に来られなくなるんだよね?気を付けてね。これ、今日のお昼によかったら食べて。ただの塩むすびで、何の補正効果もないから別の人に分けてあげても大丈夫です。3個入ってるので、足りなければこちらから好きなだけ持って行ってください」
と、もし余っても自分のお昼にすればいいやと思っていた追加分一つずつくるんだもの、全部ローファスさんが手にしました。
あうう。まだ、ローファスさんの胃袋サイズがわかりません。
「じゃぁ、10日くらいしたらまた来るからな!」
「ユーリさん行ってきます」
「「「行ってらっしゃーい」」」
キリカちゃんとカーツ君と三人で大きく手を振って二人を見送った。
「準備はできていますか?彼の馬車に乗って町へ行ってください。
サーガさんが、一人の兵を連れて小屋に来た。
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
紹介された兵に頭を下げる。そしてサーガさんにもお礼を言って、塩むすびの包みを取り出す。
「これ、あの、お昼ご飯、軍のほうで用意されて必要ないかもしれませんが……」
「え?いいんですか?ありがとうございます。お昼が楽しみです。あ、お礼にどうぞ」
ころりんと、手のひらに飴をくれた。
ガタゴトガタゴト。
あー。ドナドナ思い出すなぁ。
ポーション畑に行くときは御者台にローファスさんと一緒に並んで座ったので、こうして荷馬車の荷台に乗るのは初めてだ。
御者台でもがたがたつらかったけれど、荷台はさらになんというか、座り心地が悪いです。
プリーズ座布団。プリーズサスペンション。バネで作ってあるんだっけ?なんか作れないのかな?無理か。うん……仕方がない。座布団だけなんとかしよう。今度は小屋の枕にカバーかけて持ってこよう……。
とりあえず、揺れから意識をそらすためにカーツ君に話かけた。キリカちゃんはボコんと荷台が大きく揺れるたびに楽しそうに一緒にジャンプして遊んでいる。
いつもありがとう。
日曜は更新お休みで、次は月曜です。はふー。




