まずい麦が!まずい麦がぁ!!
「ちょっと、健康状態をね、見せてもらったの」
「え?ユーリさんは、医術の心得があるのですか?」
ブライス君が小さく目を見開いた。
「違うよ。元気かどうか、どこか具合が悪いところはないかなぁって確認できるくらいで、医者が必要かどうか考えることしかできないよ?爪の色や顔色や肌の状態、それから表情や動きからね。毎日パンとじゃがいもしか食べてないって言うから、故郷ではそんな食事を続けていたら体を壊しちゃうの。だから大丈夫なのかと思って」
私の言葉に、ブライス君が説明してくれた。
「パンとじゃがいもだけでも、3日に1本はポーションを飲んでいるので大丈夫ですよ」
ポーションを飲んでいる?
ポーションのおかげで、栄養状態が保たれるの?すごい!ポーションすごい!
いや、すごいけど、すごいけど、本気で毎日毎日パンとじゃがいもしか食べられないの?
それ、なんか一時期日本でのSNSではやった、デストピア飯っていうものではないでしょうか……。
「料理をしないからって、果物とか、なんかそのまま食べられて日持ちするようなものも、何も本当に無いの?」
「あるよ。まずいものなら……」
まずいもの?
うーん、酸っぱいレモンとかそういうのかな?でも、食べ方を工夫すればまずいものだって食べられるよね。パンとじゃがいもだけの生活よりはマシだよ。
「どこにあるの?」
「こっちだよ」
カーツ君が小屋を出て案内してくれる。
小屋を出て、洞窟のある崖の左側に回ると、急な岩が積みあがった場所がある。そこを全身を使ってよじ登っていくカーツ君。
へ、これ上らなくちゃダメ?
仕方がない。食糧確保のためだ。
よいしょ、よいしょ。
うわー、しんどい。こんなしんどい思いをしてまずいものしか手に入らないなら、そりゃパンとじゃがいも生活の方がいいって思っても仕方がない。
はぁはぁ息を切らし、疲労で少し震える足を抑えながら崖の上に上ると、そこには日当たりのよい台地になっていた。
そして、木は少なくなんかいっぱい植物が生えてる。
「昔は畑だったんだってさ。この辺」
とカーツ君が手前あたりを指さす。
「でも、あっち、水はけが悪くて野菜も麦が育たない。だから仕方なく水に浸っても根腐れしないまずい麦が植えてある」
まずい麦?
「ローファスさんが小屋を建ててくれる前は、ここで育てた食料を食べてたらしいけど、今は使ってない」
かつて畑だったという場所を見る。雑草に交じって、見慣れた野菜の葉っぱも見え隠れしている。
ニンジンの葉だよね?
一つ掴んで引き抜けば、オレンジ色の小さなニンジンが出てきた。
「それ、まずいよ」
カーツ君が顔をしかめる。
はいはい。ニンジン嫌いな子供は多いですよね。知ってますよ。
それから、近くには玉ねぎも埋まっていた。
「それ、からいよ」
はいはい。料理せずに生で食べると、ときどきめちゃくちゃ辛いのあるよね。知ってます。
それからよく見れば、草だと思っていたものの中にも大葉やニラなど食べられそうなものがいっぱい混じっています。
うれしい。
豊富なとれたて野菜食べ放題だ!
それから、まずい麦というのも見に行く。小麦か大麦か、何がどうまずいのだろうか?
「ちょっと、カーツ君っ!」
カーツ君の両手を掴み、上下にパタパタと上げ下げ上げ下げ。
「うれしすぎて、一瞬言葉を失ったよ、これが、カーツ君の言うまずい麦?どこが?どこがまずい麦なの!」
根っこが水につかっている。
確かに根腐れして育たない植物も多いだろう。だけど、むしろ根っこを水につけて育てたほうがいい植物の代表格がいっぱい育っている。
米!
「だって、これで作ったパンは臭くて不味いよ」
カーツ君が顔をゆがめる。
え?米粉パンとかあったけれど、不味くないよ?
そもそも米が臭いって?私の知っている日本のそれとは違うんだろうか?
じーっと稲穂に顔を近づけて見る。違いは分からない。
「パンもじゃが芋もなくなったときのいざというときのためにって、これだけは毎年収穫して小屋に置いてあるけど……。誰も食べないよ」
「それ、本当?帰ろう!カーツ君!小屋に早く!」
って、カーツ君をせかしたものの……。
「ユーリ姉ちゃん大丈夫か?」
ごつごつした岩の積みあがった急な坂道。
落っこちないようにしがみつくようにして降りていくのに、そんなに早く進めるはずもなく。
せっかくある畑なのに、これ、どうにかならないのかしらね?