王子と、叱責
俺、ヒックド・ミッガの婚約者、ニーナエフ・フェアリーに動きがあるという報告を配下のもの―――幼い頃から俺の側につけられている俺より5つ年上の男、エジーが俺にしていた。
ニーナは、俺にない行動力を持ち合わせている。ニーナは、自分がどのようにやっていきたいのかというのを恐らく明確に持っている。俺は彼女の明確な目的を知っていた方がいいのだが、話し合う場を設けたいがそう思いながらちらりとエジーを含む俺の側付きを見る。側付きといっても父上からつけられているもので、第七王子である俺の下に正式についているわけではない。
―――俺は、ニーナの目的を知ることを望んでいる。だが、その場を設けるためには一人では作れない。今の所、俺に最も近い位置にいる彼らは、父上に俺の立場が悪くなるようなことは報告していないように見える。――あの神子であろう少女について父上にばれていないのも彼らが報告をしないからでもある。
「―――ヒックド様、どうなさいましたか」
「………」
俺は、悩んでしまう。ニーナと話をしたい、そしてその話した内容を父上に絶対にばらさないでほしい。そう、俺が告げたらエジーはどうするだろうか。本当の意味で俺とニーナが二人っきりになれることはないだろう。扉の外には居て、話は聞こえるだろう。その状況でどこまで踏み込んで話せるか。
そんなことを悩んでいた。俺は結局、行動にうつせない。父上に対して敵対する行動を起こすことを、俺は恐れている。
結局、俺は動けないと悶々としている中でニーナからの訪問があった。
ニーナは、俺とニーナの側仕え一人だけを扉の外に残した状態で、俺と向き合っている。俺が父上と敵対することを恐れて行動出来ないというのに、ニーナは凄いと俺は感心してならない。
それにしても俺に話とはなんだろうか。
「ヒックド・ミッガ様、貴方は――、これからどのように動くつもりなのでしょうか」
彼女は、力強い目でこちらを見ている。意志の強い目、何かを意識しているような瞳。――動くことの出来ない、俺とは正反対だと実感させられる。
「どう、とは」
「フェアリートロフ王国はいずれ、崩壊するでしょう」
ニーナは、告げた。そんな爆弾発言のあと、ニーナは続ける。外に側仕えがいるというのに、踏み込んだ話をしている事実にも驚いた。
「―――そして、ミッガ王国も現状どうなるか分からないでしょう。その時、ヒックド様はどうなさるつもりですか」
どうするつもりなのかと、ニーナは問う。
俺はそれに、すぐに答えられない。
「―――私は、フェアリートロフ王国が大変な状況になった時、私はフェアリートロフ王国の民のために動きたいと思っています。そして今、大神殿に保護されているアリス様の保護をしたいと思っております。恐らくフェアリートロフ王国が崩壊した際、彼女の立場は危ういものになるでしょう。でもアリス様はまだ子供です。私よりも幼い少女に全てを押し付けて責任だけ取らせるのは間違っていると思います。私はそのために動いております。私の現状の目標はそれなのです。ヒックド様はどうなさるつもりですか」
フェアリートロフ王国も、ミッガ王国もどうなるか分からない。――それは事実だろう。フェアリートロフ王国は神子が偽物であるという時点で崩壊の危機にある。神子という存在を敵に回したとも言える。神子として保護されている少女が保護されたのは彼女が七歳の時、ついこの前、その神子は九歳になったという。それだけの期間があれば、本当に神子であるのかと疑問を持つものをあり得る話だ。
ミッガ王国も隣国というのもあって、フェアリートロフ王国の影響を強く受けるだろう。俺は……父上を絶対な存在と思い込んでいたのだとニーナの言葉に実感する。俺は、大変なことになるという認識がありながらもミッガ王国がなくなるということがイメージできていなかった。
「……俺は」
ニーナの目標を聞いて、俺はニーナのことを凄い少女だと思った。明確な目的があり、その目的のために動いている。俺とは、大違いだ。
俺はそんなニーナのことを眩しい存在だと憧れる。
だけど、
「俺は……動かない」
俺の口はそう動いていた。
「動かない? それは何故ですの? 貴方は私よりも力がある。なのにどうして動かないなどというのですか?」
「俺は……ニーナほど強くはない」
俺は何を言っているのだろうか。扉の外に、側仕えがいる状況で、こんな本音を口にするなんて。だけど、何処までもまっすぐに俺を見据えるニーナに、思わず言葉が漏れてしまった。
「強くない?」
「ああ。俺は――父上に逆らえない。俺は思う事が幾らあったとしても、動けない。父上の望む俺であろうとするだろう。それに比べてニーナは強いな。俺は父上の意志でしか動けないけれども、ニーナは自分の意志で動いている」
俺はそういってニーナを見る。ニーナは何とも言えない表情をしている。
そんなニーナに俺は続ける。
「だから、俺には期待しないでくれ。俺はニーナの望むようには動けない。ただ、ニーナの邪魔も俺はしない。外にいる側仕えにもそう命令しよう。それに側仕えが従うかは分からないが」
俺はその言葉で、もう話を終えたつもりだった。だから背を向けて扉を開けて、エジーに命令を下そうと思った。だが、俺は呼び止められた。
「――ヒックド・ミッガ様!」
大きな声。驚いて振り向けば、俺よりも背が低いニーナが手を伸ばして、俺の頬を叩いた。
体をそれなりに鍛えている俺からしてみれば、特に痛くもない。でも、ただ――両頬を叩かれたことに俺は驚いた。
「―――貴方は逃げているだけですわ! 理由をつけて、恐れて、逃げているだけですわ! 貴方は、私のことを強いなどというけれど、強くなんてありません。私だって、これからどうなるのだろうかという不安は強いですわ。そして私もお父様を敵対するかもしれないと思うと恐ろしいですわ。でも——恐ろしいからと動かなければどうしようもないのです!」
俺の目をまっすぐ見て、その思いをぶつけてくる。
「動かなければどうしようもないことがあります。逃げているだけではどうしようもないことも多くありますわ。貴方は現状から目を背けている。ミッガ王国の国王陛下に逆らうことが出来ない、恐ろしいとただ理由をつけて逃げているだけですわ。自分の意志を持っていても、その意志を貫こうとしていない。ただ流されているだけですわ。でも貴方には、力があります。王族であるということもそうですし、剣の腕があって魔法も使えるということもそうですし、何より、貴方を本気で心配している配下もいます。それなのに、逃げないでください! 貴方は私よりも動く力を持っている。それだけの力があれば、貴方は行動することが出来ますわ!」
俺に対して、逃げているだけなのだと告げる。俺は自分の意志を持っていても、動こうとしていないと。
「貴方は何をあきらめているのですか! あきらめて、動く前から出来ないと何故決めつけているのですか。動かなければ、結果がどうなるかなんて誰にも分からないのです。その結果、大変な目に合うかもしれない。だけど、流されるままに他人の意志で行動して大変な結果になるよりも、自分が決めたことを自分の意志でやって大変な結果になる方が絶対に良いと私は思います。―――それともあなたは、このまま、ミッガ王国の国王陛下の意志でのみ動き続けるつもりですか? 全てをあきらめて、そのまま流されて、国王陛下の滅びと共に、一緒に滅びるつもりですか!?」
俺に問いかける。俺の目を見据えて。目をそらすことなく。
「ミッガ王国、第七王子ヒックド・ミッガ様、―――再度問いますわ。貴方はどうなさるつもりなのですか?」
俺の頬から手を離さないまま、ニーナはまっすぐに俺を見てまた問いかけた。
「俺は―――」
そして、俺はそんなニーナに対して答えた。
―――王子と、叱責
(自分の意志を持たないと思えるほどに、自分の意志で動くことを恐れていた第七王子。彼の言葉に、隣国の王女はまっすぐな言葉を向ける。そして、第七王子は――)




