王女と、婚約。
私、ニーナエフ・フェアリーはこの度、ミッガ王国の第七王子であるヒックド・ミッガ様と婚約を結ぶことが正式に決められた。第五王女と、第七王子。互いに影響力の低い王族の婚約。だけれども、王族同士の婚約には間違いがないから、私たちの婚約は盛大に祝われることになる、予定だ。
アリス様の母親が病に伏せている。その事実にお父様は、不信感を抱いているようだ。大神殿は、神子様を保護しているという事実で、王家に対して強く出ている。神子、という神の子という名称を持つ少女が手元にいるからこそ。
神子様、という存在がいるにも関わらず我が国はどちらかというと、良いことが起きていない。というより、神子であるアリス様を保護してから、徐々に不作が続いたりしているというべきか。……もし、本当に仮に、アリス様が神子様ではないというのならば、本当の神子様がこの国を離れたからこその状況と言えるのだろうか。
”神子がいる土地がすたれることを、神は許さない”。
今まで、我が国が豊作だったり、状況が良かったのが、神子様が居たからだとしたら。
神子様がこの地を離れたからこそ、我が国がこのような状況になっているとしたら。
―――アリス様のご機嫌を取らなければ、益々状況が悪くなると考え、アリス様の機嫌さえ取っていればどうにでもなるといった態度で行動をしていた我が国の大神殿や我が王家はどれだけ愚かな行為をしていたことになるのだろうか。
アリス様が、神子様ではないのならば、幾らアリス様の望みをかなえ続けようと、我が国の状況は悪くなる一方だろう。お父様も、大神殿もだけど、神子という力を過信しすぎているって私は正直思う。だからこそ、神子の機嫌が直ればすべてが上手くいく、元通り上手くいくはずだと、思い込んでいる。そう思い込んでいるからこそ、お父様は対策をきちんと練っていないように、辺境の地で私は考える。この辺境の地も、不作にはなっていた。だけど、それの対策を領主や私、あとここの領民たちで頑張ったら何とか出来た。辺境の地でそうなのだ。王都が、もっと力を入れて対策をすれば不作の問題もどうにか出来るのではないかと思った。
本物の神子ではないかもしれないアリス様。
その場合は何処にいるかもわからない本物の神子様。
そして、明らかにこのままでは滅びそうな我が国。
頭を抱えたくなってくる。お父様は、フェアリートロフ王国が神子を手にしたということを前提で、国政を行っていると、辺境の地からでも分かるほどに神子様という存在を組み込んでいる。神子の仕事の一環としてアリス様も国内の各地を回るという旅に出るということもお父様からの手紙に書いてあったが、あんな調子のアリス様を外に出したら大変だと思う。身代わりでも立てるのだろうか。
そもそもアリス様は本当に神子ではないのか。
ぐるぐると、頭の中で様々な考えが、巡っている。
ひとまず、ヒックド様と会ったら聞かなければならない。あの言葉について。
落ち着いてヒックド様と話す前に、私が乗り越えなければならないのが婚約の披露のための式だった。
とはいえ、私は神子であるアリス様の不興を買ってこんな地に来ている王女である。そしてヒックド様も、第七王子という位の低い王子である。その関係から、互いの国の王都で盛大にやる必要はなかった。でも少なからず婚約をお披露目しなければならないのは、互いの国の民に対して、フェアリートロフ王国とミッガ王国の仲が不仲ではないということを知らしめるためだった。
だから、私の滞在している街、アナナロとヒックド様の滞在している街で小規模な婚約式が行われた。
正装をしたヒックド様は、男の人にいう言葉ではないかもしれないけれど、綺麗だなと思った。
ヒックド様の言葉が気になっての婚約、だけど……このまま何事も起こらなければ、私はヒックド様と結婚をしていくことになるだろう。もちろん、このまま何事も起こらなければだけど。
でも、ヒックド様とこうして縁を結べたことは私にとって良いことだと思う。国の情勢次第では、私が如何に王女という地位を持ち合わせていても、全然望んでいない相手との婚約もありえたのだから。
ヒックド様はあまりしゃべらない方だった。相変わらず憂いを帯びた瞳をしていて、どうしてそのように笑うのだろうか。作り物のような笑みしか浮かべないのだろうか。と、そんな風に思った。私だって王族だから、王女としての仮面をかぶる。でも、私より二歳だけ年上の方がするには冷たすぎる瞳。
私に向ける瞳も、他に向ける瞳も、変わらない。ヒックド様の目はずっとずっと、憂いを帯びたまま。
「私、婚約者となったヒックド様とお話がしたいわ。下がってもらっていいかしら?」
婚約のお披露目式が終わった後に、私は側仕えたちにそういった。ヒックド様は、私がお話をしたいと言い出すことを想像はしていたのだろう。驚いた様子はない。ヒックド様も側仕えを下がらせた。婚約者となった王子様ともっとお話ししたいという無邪気さを装ったけど、私の傍にずっといたホンデッタには私がただ単純にヒックド様を好いていてお話をしたいとかではないのはばれていると思う。
互いの側仕えたちには、危険だと諭されたが、どうにか二人で会話を出来ることになった。とはいえ、扉の外にはひかえているが。
「お聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか」
「ああ。構わない」
「……どうして、神子ではないかもしれないと?」
私は小さな声で問いかける。近くにいるヒックド様にしか聞こえないような小さな声で。
「―――神子、かもしれない少女に会ったから」
ヒックド様が言い放ったのは、そんな言葉だった。
第七王子。王族であるヒックド様が神子であるかもしれないと思った少女が居た。そんな少女に遭遇した。その事実は、私にとっては衝撃だった。
――――王女と、婚約。
(王女は思考し続ける。王子の言葉の意味を。そして自国のことを。知りたくて、王子に問いかけ、王子は答えた。その答えが、王女の頭をさらに混乱させる)




