神官、使命を受ける。
私、イムールは、相変わらず地下に監禁されたままだった。
私は外で何が起きているのか、正直わからない。私に与えられる情報はない。衣食住は、保障されている。だが、外で何が起きているのか分からなかった。私と同じく神託を受けたものたちは、目を覚ましたのだろうか。その情報さえも私の耳には入ってこない。
そんな生活の中で、私は何もできないでいた。
どうしたらいいのか、どうにかしたいというそのもどかしい気持ちでいっぱいだった私の元へ、ようやくジント様からの使いが来た。
ジント様自身がこちらに訪れないことに、何とも言えない気分を感じながらも私はその使者の言葉を聞いた。
「――――アリス様は本当に神子ではないかもしれません」
使者である神官がそんなことを言った。
「まだ貴方以外の神託を聞いたものたちは目を覚ましておりません。しかし、アリス様の母が病に手折られました。本当に……アリス様が神子であるのならば、その母が病にかかるはずがありません。それに父親の方に話を聞いた所、元々母親は病弱だったそうです。そしてアリス様には双子の妹が居たそうです。おそらく、そちらの妹様がおそらく神子様だったのでしょう……」
「……双子の、妹……。その神子様はどちらに?」
「……それが、神殿が神子様をお迎えにあがった際に捨てたのだと……。今はどこにいらっしゃるかわかりません」
「神子を、捨てた!?」
神子様の両親から聞いたであろう話だろうが、神子を捨てるなんて恐れ多いことをするなんて信じられないことだ。病弱であった母親の病がぶり返してしまったということは、その神子様であると推測される妹様のことを捨ててしまったからなのだろうか。
「……あの二人が神子様の両親であることには変わりない。加えて、神子として迎え入れられている少女の両親に危害を加えるわけにもいかず、死なすわけにもいかない。母親の方が病に倒れたということは神子様にとって母親がどうでもいい存在になったのかと考えられますが、それでも放り出すわけにもいきません」
使者は忌々しそうにいった。
私自身も、正直神子であろう少女を捨てたという話を聞いて、あのアリス様の両親を許せない気持ちは強い。だけれども、神子である少女の両親であることには変わりない。それに神子である少女を保護しているとしている神殿内で、その両親に不幸があるわけにはいかない。
神子様を間違えるという不手際を、外に晒すことは大神殿にとって大きな失態である。
「貴方には神殿からの使命を与えたいと思っております。その使命は、本物の神子様を探し出して迎え入れることです」
神子様を迎え入れる。
その役割をもらえることは、光栄なことだろう。でも———……それは、神子様にとって良いことなのだろうか。神子様と共に歩むのが、最もあるべき大神殿の姿。もし、本当の神子様を迎え入れることが出来たとしても、それが神子様にとって最も良い形になるのだろうか。
アリス様————神子ではなかったけれども、それでも神子だと思っていた少女に対し、あれだけいう事を聞き、神子のためになっているかも分からない教育を施していた。ならば、神子様を迎え入れるのは正しい選択なのだろうか。
「迎え入れること、ですか」
「ええ、そうです」
「その場合、アリス様はどうなるのでしょうか?」
「そこまではまだ決められておりません」
「………そうですか」
「ええ。ひとまずは、本物の神子様を、こちらで保護することが第一です。幼い年頃で捨てられてしまい、きっと救いを求めていることでしょう。すぐにお助けしなければなりません」
使者の女性はそういいながら、使命を帯びた表情を浮かべている。神子様が、アリス様と双子だというのだから、まだ幼い子供であることは確かだ。しかし、神子としての力を持っているだろう存在がそんな目に合っているだろうか。
……もしかしたら、この大神殿に来ることを望んでいないのではないか。目の前の使者は、大神殿に神子様を迎え入れる事が最上のことだといっているが、本当にそうなのだろうか。
―――大神殿としては、本物の神子様を、迎え入れたいのは当然だろう。しかし……、神子様の意志と大神殿の意志が違った場合、どのようにすればいいのだろうか。
頭の中で、沢山のことを考える。
そうしている間にも、使者はいう。
「本物の神子様の捜索の使命、是非、貴方に受けてほしいとジント様からの使命です。また、その使命に出されるにあたってこちらを贈呈するとのことです。こちらにはジント様が特別な術を施してあるのです。どうぞ、お受け取りください」
「……その使命、謹んでお受けしますとお伝えください」
「もちろんです。お受けいたします」
私はそういってその腕輪を受け取った。
そしてその数日後、私は神子様捜索の旅に出ることになる。
ただし……、私は神子様の意志次第では、大神殿の意志通りに神子様を連れて帰るかどうかは決めていない。ひとまず、本物の神子様だろう少女に会うこと、それが一番の目標だ。
―――――神官、使命を受ける。
(神官は、使命を受ける。ただ、その使命を遂行するかはまだ決めていない。彼は神子に会うことを、第一の目標にしている)




