少女と、エルフ 3
大勢のエルフたち。とはいえ、その数は私たちよりは少ない。エルフの人たちは、寿命がながいっておばば様もいっていたからその関係もあるのかもしれない。
エルフの人たち、皆とても綺麗だなと思った。人間とも、獣人とも違う。大勢のエルフたちが目の前にいる。森の一部のような村の風景は、神秘的に感じられる。
大勢のエルフたちが迎え入れる中で、私はちょっと不思議なものを見た。それは杖をついたおじいさんエルフの人の隣に、半透明な何かを見た。だけど、瞬きした瞬間に見えなくなった。なんだったのだろう。よくわからない。見間違いかな?
そんな風に思っていたら、そのおじいさんエルフさんと目が合った。なんだか私のことをちょっと見ている? そのおじいさんエルフは、私を少しだけ凝視したあとにドングさんに視線を向けた。そしてドングさんに話しかけた。
「貴殿が、この群れの長で間違いないか?」
「……ああ、そう思ってもらって構わない」
長、であったのはアトスさんだ。その後の長は正確には決められていない。だけど、ドングさんが私たちの長であると考えていいだろう。
それを聞いたおじいさんエルフは「ふむ」と一度頷いた。
「……貴殿らは、住んでいた場所を追われたといっていたな」
「そうだ」
「ふむ、では、この村でゆっくりするがよい」
おじいさんエルフがそういった。驚くほどに、友好的な言葉で、私は驚いた。ドングさんも、一瞬だけ驚いた顔をしていた。ランさんは、難しい顔をしている。他の皆は、ほっとした顔をする人、こんな素敵な場所で過ごせるんだと騒ぐ人、色々いた。
私は、エルフの人たちと仲良くできるの嬉しいから嬉しいって真っ先に思った。だけれど、それと同時に、ランさんに言われた言葉も思い出して、心から仲良くしたいってエルフの人たちが思っていない可能性を考えなきゃいけないって思った。
エルフのおじいさんは、私たちが生活出来るだけの場所は整えられていないからって、エルフの人たちの家に分かれて住まうようにっていってた。
ドングさんはそれにためらいを見せていた。それに対しておじいさんは、「我らは貴殿たちを歓迎する。精霊樹の名において、誓おう」とそういった。精霊樹、というのがなんなのか、私にはさっぱり分からなかったけれどそれを聞いてランさんがほっとしていたのを見てその言葉が私たちにとっては良い意味なんだろうって思った。
私はランさんと一緒に行くことになった。ガイアスとは別れた。グリフォンたちやシーフォに関しては、私が契約しているということを悟られないようにした方がいいとランさんに言われたからそのようにした。レイマーにそう小声で伝えたから皆もちゃんとそういう風にしてくれている。私たちの村でグリフォンたちを使役しているとした方がいいんだって。
その通りにした。ランさんは、私たちのことを考えていてくれるのだからって思った。
でも私のもとにレマは来てくれた。子グリフォンのレマは、私とランさんの後ろをついてきてくれている。私とランさんを案内してくれている女性のエルフは、レマのことを気にしているみたいだった。
私とランさんが案内されたのは、その女性エルフの家だった。女性一人だけで生活しているらしかった。その女性の家は二部屋で、一部屋を使っていいといわれた。
女性が別の部屋に移動したのを確認して、ランさんに私は聞いた。
「精霊樹の名において、って何?」
「エルフは魔法が得意な種族です。それでいて、精霊との関係が密接であるとされております。そして彼らにとって、精霊樹と呼ばれるものは、絶対的なものだとされています。文献で読んだだけなので、これが正確な情報なのかはわかりませんが、精霊樹は精霊を産むとも言われている樹です」
「精霊を産む?」
「はい。―――精霊は精霊樹にてその命を灯らせる。その樹を飛び回り、いずれ世界に羽ばたくだろう、そんな風に記された手記を読んだことがあります」
「……そうなんだ」
精霊樹。精霊と呼ばれる存在が生まれる場所とされている場所。その精霊樹に、エルフの人は誓った。
「精霊樹の名において誓う、というのは、精霊と密接な関係である彼らにとっての絶対の言葉だと私は考えています。そのような記述を読んだこともあります。精霊樹の名において誓うと、あれだけ堂々と宣言をしたのですから、私たちを歓迎していることは、おそらく確かなのだと思います」
種族が違えば、そういう違いもあるんだということをランさんと話していて、考えた。
獣人の皆だって、人間の村とは違う暮らしをしている。違う文化を持っている。エルフの人たちは、私が知らない文化を沢山持っているのだろう。ランさんに沢山聞かなきゃ。分からないこと、知らないこと、私にはいっぱいあるから。
「……でも、ランさん難しそうな顔してる」
「ええ。歓迎をしているのは真実とはいえ、これから事態がどうなっていくかはわかりませんもの。だから、レルンダも気を付けてね」
「……うん」
ランさんは、歓迎をしているのは事実だといった。でも事態がどうなるのか、分からないともいった。ランさんの言葉に頷いた私は、エルフの人たちが何を考えているのか思考を巡らせた。エルフの人たちは冷たい。でも歓迎はしている。エルフのおじいさんは——と、そこまで考えて私はエルフの人たちが、名前を教えてくれていない事実にその時ようやく気がついた。
――――少女と、エルフ 3
(多分、神子な少女はエルフの村の家の一つに女史と共に通される。まだ、少女はエルフの誰の名前も知らなかった)




