少女と、行方 5
アトスさん。
優しい人。
とっても優しくて、大好きな人。
その人が、何も言わぬ死体で、目の前にいる。……ああ、と思った。
ボロボロ。アトスさん、傷がいっぱい。あの人たちが、そんなことしたの。アトスさん、悲しい。もう、アトスさんの声をもう聴けなくて、もうアトスさんに会えなくて。悲しい。苦しい。どうして、アトスさんがこんな目に合わなければならないのだろう。どうして。
悲しみでいっぱいの心のまま、私はアトスさんの亡骸が火にくべられるのを見てる。アトスさんを、空へ送るための儀式なんだって。
悲しい。
アトスさんが、どうして。
分からないまま、私やガイアス、あと他の子供たちが固まっている間に大人たちは動いていた。大好きな村からすぐに移動すべきだと言っていた。
アトスさんを探しに行っていた、皆は無事だった。グリフォンたちが連れ戻してくれた。私とガイアスが戻った時、ランさんは私のことを抱きしめてくれた。無事で良かったって皆に言われた。そのことを運が良かったんだって、言ってた。アトスさんは死んでしまった。アトスさんにもう会えない。でも———人間の国が動いている中で、アトスさんだけですんだことはまだ幸いなことだったんだって。辛そうに、皆いうんだ。本当は、もっと、大変な犠牲になっていたかもしれないって。でも、アトスさんが亡くなってしまったことは、皆が悲しんでいることなのはわかった。頭では、一人だけの犠牲で済んで幸いだったと納得できたとしても、アトスさんは皆の大切な人だったから、アトスさんが亡くなってしまったことを悲しんでいる。
皆、皆悲しい。苦しい。そんな顔をしている。
でもただ悲しんでしまっている私たち子供とは違って、皆、悲しくても動いている。私はランさんに手を引かれながら、しばらく過ごした獣人の村を後にする。しばらくの間しか過ごしてなかった私にとっても、それは寂しいことだった。この後、村が襲われた時に襲ってきたものたちに村を好きにさせないように家を取り壊したり、一生懸命世話をしていた畑もすべて焼き払った。大好きだったものが無くなっていく。寂しい。悲しい。でもきっと、私よりもっと村にいたガイアス達の方がつらいだろう。
「……ラン、さん」
私はランさんの手をぎゅっと握る。
心ここにあらずなガイアスは、ドングさんに手を引かれている。
グリフォンたちやシーフォが、あたりをしっかり警戒してくれている。私たちは、森を南下している。森の南は、手つかずの土地だと聞いている。魔物も沢山いるんだって。だから恐ろしい場所かもしれないって。でも……このままでは、駄目なんだって。このまま、変わらずにいたら皆死んでしまうかもしれないのだって。
ああ、と思う。
苦しいな、悲しいなって思う。
「アトス……さん、何で、死ななきゃ?」
「……人間たちが何故アトスさんを殺したか、それは獣人であったからだと思いますよ。獣人であったから……、殺してもいいという認識のものはいます。それにおそらく、アトスさんを傷つけて、獣人の村の場所を聞き出して、襲撃するつもりだったのではないかと思います。アトスさんは、言わなかった。言わなかったから、殺されたんだと、思います……」
「言わなかった、から」
「……アトスさんが、私たちを守ってくれたのですよ。アトスさんが、命を張って、守ってくれたんです。きっと。それに、レルンダ、おそらく、あんなにわかりやすい場所にあった村がこれまで見つからなかったのは……、貴方が、神子だからだと思います」
最後の言葉は、私にだけ聞こえるぐらいの小さな言葉だった。
神子。
神子だったから。だからあの村が見つからなかったとランさんはそんなことをいう。
本当に、私はそんな存在なのだろうか。そもそも、そんな存在であったなら、何でアトスさんは死ななければならなかったのだろうか。私が神子だったから、村が見つからずに済んだ。そして皆が死ななかった。それはいいことだろう。でも、アトスさんが、居ない。全てを守れない、なんて……。悲しいよ、何度考えても悲しい。
どうして獣人だからって、酷いことが出来るのだろう。
ううん、獣人とか人間とか考えなしに、”人”に対してあれだけ酷い真似が出来るのが、私には信じられない。どうして、そんな悲しいことが出来るのか、分からない。
「……私、悲しいの、嫌」
「ええ、私も……嫌ですわ」
「悲しく、ないように、したい」
悲しい。苦しい。アトスさんが、居ないの寂しい。気づいたら涙は溢れてくる。いつも、泣きそうになる。
私……、悲しい、ないようにしたい。大好きな人たちに、もう二度と会えないなんてことは、嫌。嫌なの。
私一人ぼっちになってたら、私は耐えられなかったかもしれない。悲しくて、苦しくて仕方がなくなっただろう。でも……、悲しくても苦しくても、それでも一生懸命、私たちを導こうとしている皆を見ていると悲しんでだけではいられないって思う。
「……そのために、私……出来る事、する」
私が、私が、本当に神子であるというのなら、頑張れば、守れるんじゃないか。出来ることをもっと精一杯やったら、もう二度と、失わずに済むのではないか。
ランさんの手を握って歩きながら、私は、そう思った。
――――少女と、行方 5
(多分、神子な少女は親しい獣人の死を目の当たりにし、いろんなことを考える)




