少女と、ルーニッド王国の関わり ⑤
私がランさんと一緒に会話を交わしてしばらくが経った後、ルーニッド王国の国王に対する報告書が私とガイアスの元へと届けられた。
特にレゼット国から来た人たちが、頑張ってくれている。こうやって情報収集することも昔からよく行っていたんだって。
どこかに潜入して情報収集をしたりとか、そういうことも王様としては考えなきゃいけないんだよね。
とはいえ、シュオンガルベさんとかは「得意な奴にやらせればいい」なんていって軽く笑っていたけれど。
確かに得意不得意があるのは分かる。それにそう言う風に情報収集をするにあたってはおそらく目立たない人の方がいいとか、そういう適性もあるとは思う。
でも私は出来れば、誰か一人に背負わせるというのはしたくない。
私は神子だけど、そんな私一人に皆は何かをやらせようとしたりはしない。私がそういう存在だからこそ何かをすべきとかそんなことを押し付けたりなんてしない。
――そんな皆に囲まれているからこそ、私も同じように返したいなとそんな気持ちでいっぱいになるの。
「やっぱりルーニッド王国の王様は、武力を使って何かをしようとしているんだね」
私はレイマーに寄っかかりながら、報告書を見て思わず眉をひそめてしまう。
だって書いてあることが凄く物騒なんだよ。読んでいたら青ざめてしまいそうになるのは、自分達と相いれない存在に対しては武力行使をしようとしていること。そういう準備をしているんだって。
あれだよね、所謂戦争と呼ばれるようなものを起こそうとしているのだ。……うん、本当にそんな物騒なことを深い理由もなくやろうとするのって何なんだろうって私は怖い気持ちでいっぱいになる。
私は誰かが傷ついたり、亡くなったりすることがとても恐ろしいと思う。今まで失ってしまった大切な人達のことを思い浮かべると、いつだって胸が痛くなる。
人と人同士が戦うということは……それだけそんな悲しいことが沢山起きてしまうということだもん。私はそれが凄く嫌だ。私達の国に関わり合いがなかったとしても、出来れば起こらないでほしいとそんなことばかりずっと思っている。
だけれども他の国のことまで、私は手を出せない。……そもそもそれぞれの国にきっと何かしらの事情があって、それに対して身勝手に口出しをすることなんてしてはいけないことではある。それこそ私達の国に取り込んだりするのならともかく、そうじゃないなら……きっとそんな勝手な意見はきっと言わない方がいい。
そのくらいのことは私だって分かる。
うん、難しいね。
国と国同士の関係性ってきっと単純なものじゃなくて、それだけ沢山の人が関わるもので、だからこそ結局そうやって争いになったりもする。
私は出来れば自分の国は平和なままがいいって、大切な人達が亡くなったりしない方がいいって思う。けれどルーニッド王国は……私達の国の存在を知ったらどう動くんだろう?
「ぐるぐるるるる(こちらに何かしてくるなら、迎え撃とう)」
「レイマーは好戦的だね? 出来ればそういうことにならない方がいいんだよ?」
レイマーは争い事が起こるかもというのを感じ取っても、堂々としている。うん、レイマーらしいなぁと思う。
私はそういうことが起こるのは怖いなと正直思う。けれどもレイマーのような性格だと、こういう感じなんだな。
国内の人達だって向かってくるなら、この国を守るために戦うとやる気に満ちている人もきっといる。それでいて私のようにそんな争いが起こるかもというのに怯える人もいるだろう。
……神子の力は、傷ついた人を癒すことは出来る。
例えば、誰かが傷ついた時に私は皆の事を救おうとはする。だけれど、私は自分の限界を知らない。もしかしたら――全てを癒したいと思っても出来ないかもしれない。傷を負う人が多かったらきっとそうなんだと思う。
「ねぇ、レイマー。まだ分からないけれど、例えば戦争みたいなことが起こった時……私は皆を助けられなかったりするかもしれない。そう思うと、ちょっと怖い」
「ぐるぐるるるる(それは仕方がないことだから、気にする必要はない)」
「でも救える人は救いたいなって思う。けど私にもきっと限界はある」
「ぐるぐるううう(出来る限りでいい)」
「……うん。そうなんだろうけれど。あれだよね、そもそもの話、そんなにたくさんの怪我人が出ないように出来れば一番かな? そのために私が出来ること考えないと」
誰も傷ついてほしくない。
だから私は私が出来ることを今のうちから考えておきたい。
沢山の人達が傷ついたら、結局どうしようもなくなったりしてしまうから。救いたいのに救えなくて、それでどうして助けてくれなかったんだってそんな風に言われたりするのもきっと悲しい。私にはそうやって助ける力があるのに出来ないことも――それも嫌だなって思うから。
だからね、誰かが傷つく前に戦いをやめてくれるように、引き返してくれるようにするのがきっと一番いいんだ。
――少女と、ルーニッド王国の関わり ⑤
(神子の少女は、ルーニッド王国の報告書を読みながら自分に出来ることを考える)