少女と、行方 1
誕生日が終わって、私は八歳になった。誕生日がこんなに嬉しいのは、初めてだった。誕生日がこんなに嬉しくて、温かいものだと知ったのは初めてである。
ぽかぽかして、嬉しかった。
おめでとうと、何度もいってくれて、それだけでも心が温かかった。
楽しい。嬉しい。温かい。と、ずっと、感じていた。私は皆と過ごすのが本当に幸せだってそう感じられた。
「レルンダ、遊ぼう」
「うん」
その日も私はガイアスに手を引かれて、シノミやカユ、あとは男の子たちの元へ向かった。
追いかけっことか、私はあんまり体力はないけれども一生懸命やった。獣人の皆と人間の私では身体能力が違うから、私は身体強化を使ってだったけど、それでようやくなんとかやっていけるぐらいだった。
皆、凄い。
追いかけっこは、この村にやってきて初めてやった。これまで皆がやっているのを見たことがあっただけだった。その時は羨ましいとかも何も思わなかった。私には無関係のことだとしか思ってなかった。だけど、実際にやってみるとこんなに楽しいんだってびっくりした。
こうして遊んでいるうちに、体力もついてきた気がする。
「楽し、い」
「ね、楽しいね、レルンダちゃん」
シノミが私の言葉ににこやかに笑って言う。
穏やかで、優しい笑顔。シノミのこういう笑顔、私は好きだなって思う。こうやってみんなで遊ぶの、私楽しくて好き。こうやって友達が出来るのって楽しいのだなってこうやってここにきて初めて知った。
沢山の初めてを、皆がくれて。
沢山の嬉しいを、皆がくれて。
こんなに私は楽しくていいのだろうか。幸せでいいのだろうか。そんな風に思ってしまう。
「みんな、だい、好き」
「なっなななななな、何でそんなこと普通に言えるんだよ」
「バーカ、バーカ!!」
私が素直に皆が大好きだと口にしたら、一緒に遊んでいた四人の男の子たちは恥ずかしいのかそんな声を上げた。
それも照れ隠しだとわかって。私のこと嫌ってないのもなんとなくわかって。だから、そんな風に声をあげられても私は笑みを零してしまう。
思いっきり遊んだあとは、ランさんの所へ向かった。
「ラン、さん」
「よく来ましたね、レルンダ」
ランさんは、にっこりとほほ笑んでくれる。ランさんの笑みを見て、私は嬉しくなる。ランさんは私の知らないことを沢山教えてくれる。
神子かもしれない、っていう、それだけだけど、神子について私は知らなければならない。それに、獣人と人間についてももっと知っていかなければいけない。
「ラン、さん……私、しあ、わせ」
「ええ、それは喜ばしいことですわ」
「……でも、何か、おきそう」
「そうですわね。確実に何かは起きるでしょう。この森に隣接しているフェアリートロフ王国と、ミッガ王国は”神子が出現した”ということで行動に移しています。何かは、確実に起こるでしょう。その対策についてはアトスさんが現在考えている最中ですが、今の暮らしも少なからず変わるでしょう」
「……うん」
アトスさんは、ニルシさんたちから猫の獣人の村が襲われたことを受けてどのように行動に移すべきかという件をまだ話し合っていて結論が出ていない段階だ。結論が出たら、少なからず今の生活は変わるだろう。
「どう変わっていくかも分からないことで不安かもしれませんけど、何かが変わっても貴方には私やこの村の人たちがいますからね。貴方は、神子かもしれないけれども、子供です。子供なのだから守られていていいんですからね」
「……私、何か、あった時、何か、出来る?」
「おそらく、貴方が神子ならば、やろうと思えば何でも出来るでしょう。だけど……、感情に飲み込まれて行動をしたら大変なことになります。貴方はきっと、感情にのまれて大変なことになったらきっと後悔をすると私は思います。だから……感情にのまれないように気を付けてくださいね。難しいかもしれないけれど……」
「……うん」
頷いた私に、ランさんは、過去の神子の話をする。
「過去に神子が憎しみにのまれて国が滅んだという話もあります。それだけのことをその国がしたからだとも言えますが、その当時の神子は憎しみにとらわれて、最終的には自殺したとされています。恐らく、貴方と同じぐらい優しい子だったのではないかと思います。国を滅ぼすほどの憎しみを抱いて、災厄と呼ばれるほどに影響を与えたのは……辛かったのだと思います。想像ですけれど、レルンダも、もし、感情にのまれて、それだけの影響を及ぼしてしまったら貴方は優しいから辛いでしょう?」
過去の神子。
憎しみのままに、国が滅んだ。災厄と呼ばれるほどに影響を与えた。
憎しみを感じるほどのことを私がされたとして。その、酷いことをしてきた人の国が滅んだとして。でも……それで関係のない人まで辛い目にあったら、大変なことになったら。……辛い、って思う。悲しいって思う。
私が優しいとかは、違うと思うけど……でも辛い、悲しいとは思うから。
「……うん」
頷いた私の頭をランさんは優しくなでて、
「そんな風にレルンダが感情にのまれるような出来事が起こらなければ一番良いのですけどね」
と、そんな風に呟いた。
その日、村の外に出ていたアトスさんがまだかえってきていないという報せを受けた。
―――少女と、行方 1
(多分、神子な少女の耳に、その報せが耳に入った)