少女と国主の手紙のやり取り 2
自分の名前と好きなことなどを記載した手紙。
ディライガルンさんが「丁寧口調じゃなくていいって、兄上が」と言っていたので、その言葉に甘えて少し崩した言葉で書く。
ディライガルンさんの話を聞く限り、基本的にシュオンガルベさんは軽い口調のお兄さんらしい。
誰にでも分け隔てなく変わらない。それでいてレゼット国を上手く纏めている理想の君主だと、そんな風にディライガルンさんはシュオンガルベさんのことを褒めていた。兄弟というのは、距離が広がっている人たちもいるものらしい。でもディライガルンさん達兄弟はとっても仲良しで、互いを褒めることを照れ隠ししたりしないみたいだ。
私とアリスは少しずつ、昔の疎遠だった時を縮めていくように――仲良くしている。でも最初から仲良しな兄妹と比べると、まだまだ私とアリスの距離はきっと遠いのだろうなと思う。
「ディライガルンさん、私ね、双子の姉であるアリスとずっと疎遠だったの。最近、仲良くするようになったけれど、もっと仲良くなりたいと思っているの。そのために何をしたらいいと思う?」
「そうなのか。姉って、例のフェアリートロフ王国の偽物神子か?」
「うん。そう。私にとって大事な姉なの」
「そうか。姉妹仲が良好なのはいい事だと思うよ。血が繋がっているのに争いあうなんて悲しいことだから」
ディライガルンさんは、兄であるシュオンガルベさんを第一に考えている人で、おそらくそのためなら何だってするだろ。だけど基本的にディライガルンさんは穏やかな人で、それでいて兄であるシュオンガルベさんも会ったことはないけれど同じような感じなのだとは思う。
だからアリスのことも話してしまった。
ディライガルンさんも、私に偽りは口にせずに、素直な気持ちを口にしているからというのもある。
私の直感が問題ないと、そう言っているから。
「王族とかだと、そういうの多いって聞いた」
「そうだね。僕たちの国でもそういうものは尽きないよ。跡目争いなんてよくある話だ」
「ディライガルンさんは、そういうの、全然考えてなさそう」
「当然。僕にとって兄上がトップにいてくれることが何よりだからね。僕の兄上は自分のことを過小評価しすぎなんだよ。僕たちは兄上だからこそついて行っているのに、僕の方が君主に向いているとかいって押し付けようとよくするんだ」
「そうなんだ」
「そうだよ。兄上はそういう人だからね。ああ、でもそういう関係性は多分、普通じゃないから参考にしない方がいいよ。この村が国へと至るなら、そういう跡目争いはちゃんと考えていた方がいいと思う」
「うん」
ディライガルンさんと、シュオンガルベさん。
二人の兄弟のことは参考にならないなどと本人に言われる。
ルーニッド王国でもそういう次の王様を決める時期が来ているといっていた。
争いなんてない方がいいとはおもうけれど、おそらくそういうことが起これば少なからず争いになることも多いのだと思う。
それにしても本当にディライガルンさんはシュオンガルベさんのことを楽しそうに話す。
「神子という立場は特別だから、君は気を付けた方がいい。君の旦那の座を狙って争いになることも十分に考えられるから」
「え」
「そんなこと考えてなかったの? 神子って今何歳?」
「十三歳になった」
「それなら、そういう目的の奴らも増えてくる可能性は十分あるよ。神子の血を引く子供を欲しがる人は幾らでもいるからね」
「……そっか」
「周りは勝手に期待し、想像するものだよ。神子の子供ならば、同じように神子の力を持つのではないかとかね」
「……多分、神子の力って引き継がれないよね?」
「そうだと思うよ。というか、血で引き継がれるようなものだったら神子なんて言う存在はこんなに特別視はされないだろうから」
ディライガルンさんの言葉に確かにと思う。
神子の力が子供に引き継がれていくようなものであったのならば、神子という存在はもっと沢山溢れているだろう。
神子という存在は、本当に時折世界に現れるものだからこそ……これだけ特別視されている。
……私と、夫婦になること。
そのことは多分、それだけ大きな意味を持つことなのかもしれない。
私は優しい皆に囲まれているから、そういうことはあんまり考えていなかった。
でもそうかと思う。私ももう十三歳で、あと数年もすればそういうことを考えなければならなくなるのかもしれない。
そういうこと、考えたことはなかったけれど……私は神子だから気をつけなければきっといけないのだろうなと思う。
「それに神子はもっと警戒心を持った方がいい。僕に気を許してくれているのは有難いけれど、あくまで僕はレゼット国の国主の弟だから」
「ディライガルンさんは警戒しなくて大丈夫って、私の直感が言っている。それに悪い人ならこうやって忠告なんてしてくれないよ」
私がそう言えば、ディライガルンさんは「それもそうだね」とおかしそうに笑った。
――少女と国主の手紙のやり取り 2
(神子は国主の弟と、楽し気に会話を交わす)




