神官、行動する。
神子が神子ではないかもしれない、私はそう思った。
しかし、神子の存在を疑うことを口にするというのにも準備が居る。目が覚めてからしばらくの間、神子とその周りの情報を集めてみたが、このまま私が神子が神子ではないかもしれないなんていうことを言ったらどうなるか分からない。
慎重にことを進めていかなければならない。神子が正しい神子ではないかもしれないと、口にしてきちんと受け止めてくださる方は誰だろうか。私以外の神託を受けた神官たちはまだ目覚めてもいない。彼らが目覚めたら、もう少し動きやすいだろうが。しかし、私はたまたま一瞬だけ神子の姿が見れたけれども、他のものたちが姿を一瞬でも見たかもわからない。
下っ端神官である私は、神託を受け取ることが出来たからようやく上層部の人たちとかかわり合うことが出来るようになったが、神子が神子ではないかもしれないと言える存在が居ない。彼らは、アリス様が神子であることを疑っていない。アリス様を神子だと信じ切ったまま、教育係であった女性を追放し、アリス様に諫言をしたために王女様までも辺境にやられてしまったという話を聞いているとどうしたらいいか分からなくなってしまう。
アリス様が神子ではないかもしれない。もし本当にアリス様が神子ではないのであれば、神子ではないものを神子として民に示してしまったことになる。アリス様を神殿に引き取ってから、国に不利益なことがいくつか起きていたりするということを考えると、本当の神子様ではなく、違う存在を引き取ってしまったために起こったことではないか。アリス様を怒らせた結果だと判断しているらしいが、今も少なからず何かが起こっているらしい。神子は神に愛されている存在であるが故に、神子がいる土地は栄えるとされているのに、そういう良い効果が起きていないことを神殿はどう思っているのだろうか。
私はそのことを考えて、悶々としてしまった。
誰に言ったらいいだろうか。ご本人に告げてみるのも一つの手なのかもしれない、そう思うけれどもアリス様はまだ子供であるし、本人にいってもどうしようもないだろう。そもそもアリス様に二人っきりで会うことはまず出来ない。
悶々と悩んでいたら、
「イルームよ、どうなさったのですか」
高位神官であるジント様に声をかけられた。
私が最近憂いのある顔をしていたことが気になったのだと、心配そうに声をかけられた。
目を覚ましてから、ジント様は高位神官の中でも特に私に気をかけていてくれている。大神殿で数十年神官をしている尊い方だ。
この方に告げるのはどうだろうか。
そんな考えが湧いてきた。
他の神託を受けた者たちが目が覚めるまで待つべきだろうか。しかし、いつ目が覚めるかもわかったものではない。早く言わないと、それだけ神子ではない者を神子としてしまう事になってしまう。
「……一つ、ジント様のお耳に入れたい事がございます」
どのように動くべきか、分からなかった。分からなかったけれど、このまま、アリス様が神子ではないかもしれないという思いを抱えたまま、黙っているというのは駄目な気がした。
「なんでしょうか」
「……神託を受けた際に、私は神子様の特徴だけではなく、神子様のお姿を一瞬だけですが目にしたのです」
私がその話をするのは初めてであった。ジント様は黙ってその話を聞いてくれている。私は今まで抱えてきた気持ちを吐き出すようにように絞り出すような声を出す。
「……その時に見た姿が、アリス様と、違ったんです」
「それは、どういうことかしら」
「……そのお姿は金髪ではありませんでした。確かに髪の色は茶色だったのです。私の見間違いかもしれませんが………、私は、もしかしたらアリス様が神託の神子ではないのかもしれないと思ってしまうのです」
大神殿が認めた神子が、神子ではないかもしれない。
それは不敬な発言だろう。だけど、芽生えた、疑惑は確かなものだったから。もちろん、私が考えすぎなだけかもしれないということも告げたが。
私の言葉にジント様は、驚いた顔をして、次の瞬間には優しく笑っていた。
「わかりました。では、私がその件は預かりましょう」
そういって微笑んでくれたから、私はほっとした。ずっと芽生えていた神子が神子ではないかもしれないという疑惑を人にようやく話す事が出来て、心が楽になった。私は高位神官であるジント様が預かるといったのだから事態が好転すると思っていた。
ところがその二日後、私は秘密裏に監禁される事になった。
何故、と困惑して仕方がない。始まったのは、尋問である。神子の姿が違うとはどういう事か、から始まった。
私は、これから、どうなるのだろうか。
大神殿に地下があることも私は知らなかった。こんな形で地下の存在を知ることになるとは思っていなかった。この件は預かるといってくださっていたジント様の姿はあれから一度も見ていない。
外から丸見えの、頑丈な、牢屋のような場所のベッドに座り込んだ私は呆然としていた。
―――神官、行動する。
(神官は、行動した結果、監禁された)




