少女と、火事 3
ニルシさんに抱っこされたまま皆の元へ行くと、皆が「大丈夫?」と声をかけてくれている。
そうやって心配されると嬉しい気持ちになった。皆が私の事を大切に思っていてくれている――その事実に心がじんわりとする。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
ガイアスに聞かれて、大丈夫と私は答えた。
ニルシさんに降ろしてもらって、椅子に腰かける。ガイアスやカユが私に質問をしてくる。
「あの雨、レルンダがやったことなのよね。凄いわよね。どうやったの?」
「あれって前に言っていた天候を操れるっていう力なのかな。魔力切れってことは魔力を結構使ってるんだよな?」
前々から私は天候を操る力とは、どんなものだろうかと二人と話していた。
二人は興味深そうな様子を見せている。
どうやったかと考えてみれば、私は――、神様に祈ったのだ。ドウロェアンさんから私が天の神様の加護を得ていると言われたから、だから私のことを見守ってくれている神様に祈った。
そうしたら雨が降ったのだ。
「祈ったら雨が降った。火を消火したいって気持ちを込めて祈ったら……、ざぁって雨が降り出したから、多分、祈るってことが鍵なのかなって。でも無条件にそういうことを起こせるわけじゃなくて、私の魔力は使うみたい」
「でも何かきっときっかけがあるわよね? 前に軽く祈った時は天候が動いたりしなかったし」
「んー、本気で祈っているかどうかなのかなって……。本当に私が必要としている時にその祈りを聞いてくれるのかなと」
どういう基準で神様が選別しているのか分からない。すべての願いをかなえてくれるわけでもない。神様は私の事を見守ってくれていて、時々助けてくれるだけなのだ。
本当に私が必要としているかしていないか――そういうのが神様ならばわかるのかもしれない。
火事で燃えてしまった場所は、原形をとどめていないのでこれからまた建て直す必要があるのだという。これだけ燃える前に火の消火を出来たらよかったのに……とちょっと落ち込んでしまう。
「何を落ち込んでるんだよ、もっと誇れ」
落ち込んでいたことはニルシさんにも悟られていたようで、頭をぽんと叩かれてそう言われる。
「そうだよ。レルンダが火事を止めたんだから、もっとはやく止められたかもしれないなんて考えなくていいんだよ」
「火事を消火してもらえただけで俺達は感謝しているんだから」
皆がそう言ってくれた。
そっか。私はまだまだ自分に出来ることはあったんじゃないか。——もっとはやく火を消すことが出来るんじゃないか。そんなことばかり考えてしまっていた。
でもそうではないのだ。
私は神子だから――もっと何か出来るのではないかってそんな風に思ってしまったりする。だけど、私はまだまだ子供で、そんなになんでも出来るわけではない。
そのことを改めて実感する。
私は私で、出来ることとと出来ないことがある。
ランさんはいつも私に色んな事を教えてくれている。その話の中で、神子という存在は周りに利用され、期待されることが多いって言っていた。だからこそ、「レルンダをレルンダとしてみてくれる人は貴重ですから、大切にしましょうね」と言っていた。
――ランさんの言葉が私の脳内をかすめた。
今の所、私はまだそういう私を利用しようとしたり、私に大きな期待をかける人に遭遇をしたことはほぼない。
でもそういう人たちは何処かにはきっといる。
私が運よく、そういう人たちと遭遇していないだけで。ランさんは最初から、私を利用しようとする人はいるとそう言っていた。いつか、私はそういう人たちと接することになるのかもしれない。
だから、皆が純粋に私の事を心配してくれていることはとても幸せなことなのだと思う。
「うん。私、頑張った」
――だから、皆の言葉を受け入れる。
私は出来ることをやった。誇っていいと、落ち込まなくていいと、そう皆が言ってくれるから。
私は自分が頑張ったのだと受け入れて、笑った。
「でも次は倒れないようにしてね」
「倒れたら心配なんだから」
倒れたら心配だから、もう無理はしないでほしいと皆は言う。
私は心配をかけないように、もし次にこういう神様に祈りをささげる時があればランさんと話していたようにちゃんと範囲を考えようと思う。
まだまだ私の力は分からないことだらけだからこそ、もっと自分を把握できるように心がけよう。きっとそうすることで、未来のための力にはなるはずだもん。
窓の外を見れば、まだ外では雨が降っている。
私が呼び込んだ雨が――。
その雨は、しばらく降り続けていた。
しばらくして雨が止んだ後、私は祭壇に向かった。
――神様、雨を呼び込んでくれてありがとうございます。
――いつも、私のことを見守ってくれてありがとうございます。
そんな祈りをずっと捧げていた。この感謝の気持ちが神様へと是非届いてくれればいいなと思う。
そしてこの感謝の気持ちを忘れないようにしようとそんな風に考えるのだった。
――少女と、火事 3
(神子の少女は、神様への感謝の気持ちをささげる)




