少女は、舞の力を知りたい 1
フィトちゃんが目の前で舞を踊る。
軽いステップで、目の前で踊る姿は本当に綺麗だと思う。私も真似しようとしたことあるけれど、全然そんな風に出来なかった。
神の娘というのは、舞も歌も昔から学ぶものらしい。幼いころから練習をしてきたとはいえ、これだけ上手に踊れるのは凄いと思う。なんていうか、ただ上手に踊っているだけではなくて、その一つ一つの所作が美しいと言える。
私もじっと見つめていると、その姿に見惚れてしまいそうになる。
舞うように踊れば、衣服の裾がひらひらと動く。なんというか、民族が踊りや歌を大切にしているからこそ、そういう見栄えが良い服装になっていったのかもしれない。
どんなふうにその人たちがそういう服を着るようになったのかとか考えたこともなかったけれど、そういうのも調べてみたら一つ一つにきっと理由があるのだろう。
「シーフォ、フィトちゃん、凄いね」
「ひひひひひひーん(僕も歌いたい!)」
「シーフォ、我慢しようね。今はフィトちゃんのことを見てるんだから」
「ピキイイイ(良い踊りだ)」
「ふふ、ドアネーアも今度踊ってみる?」
「ピキイイイ(我はそんなことせぬ)」
シーフォとドアネーアと一緒にじっとフィトちゃんを見ている。
それにしても舞を踊るフィトちゃんは、なんというか楽しそうだ。フィトちゃん自身が踊ることを義務としてではなく、心から楽しんでいることが分かる。
美しい舞が行われているのを見ながら、私は魔法が使いやすいかどうかも試している。
フィトちゃんの舞が他に影響を与えるものだとは分かったけれど、それ以外のことはまだ分かっていない。
意識して舞を踊ってみて、魔力が抜けていく感覚をフィトちゃんは何度も味わっている。練習を必死にしているんだって皆言っていた。
フィトちゃんは嬉しいことに、私の力になりたいと頑張ってくれている。私はそれが嬉しかった。周りが頑張っているのを見ると、私も頑張らなきゃならないとそんな気持ちでいっぱいになる。
フィトちゃんは”神の娘”なんて特別な呼び方をされていた人だけど、親しくなれば分かるけれど本当に努力家だ。なんというか、コツコツと行っていく。そういう子だと思う。
「ふぅ……」
フィトちゃんの舞が一旦終わる。
フィトちゃんは息切れをしながら、こちらに歩いてくる。
そして私に向かって声をかける。
「レルンダ、どうだった?」
「うん。魔法はやっぱり使いやすい。前より少し、使いやすさが増してる気がする」
「なら、良かった」
フィトちゃんは私の言葉にほっとした様子だった。
折角そういう力を手に入れたのだから、その力を磨いていきたいとフィトちゃんは思っているのだろう。
それにしてもフィトちゃんの力がそういう人へ影響を与える力であるのには理由があるのだろうか。いまいちそういうのは分からないけれど、元々の能力から芽生えたのか、それともその人自身の願望からそういう力になるのだろうか。
――そんなことを考えながら隣に座ったフィトちゃんと話をする。
「私のこの力、どんな風に使えるかしら」
「色々使えると思う。だけど、出来たら攻撃的なことだけには使いたくない。何か大変なことが起こったら力は使わなきゃならないけど……、そういう風にはしたくないなって思うから」
「そうね。やろうと思えば私たちは誰かを攻めたりすることは出来るでしょう。そして制圧することも。でも私もそういうことは望んでいない。ここが大きくなることは良いことだけど。そういう力を使うように言ってくる人が出てくるかもしれないものね。……ちゃんと、そのあたりも考えないとね」
「うん。最低限、力は使う。でもなるべく仲間たちを守るため、この生活のために使いたいって思う」
私がそう言えば、フィトちゃんも笑って頷いてくれた。
フィトちゃんの力はきっと様々なことに使うことが出来るだろう。
それでもその力は、出来れば戦うことだけに使いたくはない。力って使い方次第でどうにでもなるはずだと、私はそう思うから。
「そのためにもこの力がどういうものかどんどん知っていかないとね」
「うん。そうだ。フィトちゃんの力がどういう風に影響するかもっと皆にも協力してもらって調べてみようよ」
「そうね……。私たちだけでやっていてもすべてが分かるわけでもないものね。でも……迷惑じゃないかしら?」
「急にだと皆も慌てるかもしれないけれど、準備をしたら助けてくれると思う。それにね、フィトちゃん私たちは仲間だもん。だから助け合おう。私たちが手伝ってもらう代わりに、この力を使って皆を助けようよ」
「ええ、そうね……。助けて、助けられる。それが一番良いものね」
フィトちゃんとそう言って話し合って、その後、フィトちゃんと一緒にランさんの所に行くことになった。
ちなみにフィトちゃんと私が話している間、シーフォとドアネーアは話を聞いているのに飽きてきたのか遊んでいた。ドアネーアはシーフォの背に乗せてもらってふんぞり返っていた。
――少女と、舞の力を知りたい 1
(神子な少女は、神の娘と共に舞の力について知ろうと始める)




