少女と、翼 1
「綺麗な翼ですわね。ふふ」
「ランさん、楽しそう」
「楽しいですもの。レルンダは沢山の新しいことを私に見せてくれるもの」
翼を生み出した後、ランさんと一緒に家に戻った。そしてランさんにせがまれて翼を魔力で作った。
鏡の前に立てば、白い翼が映る。
不思議な気分だ。私が空を自由に飛びたいと願って、形になった翼。元々翼なんてものがない私に、翼が生えている。動かそうと思えば、動かすこともできる。
これは私が飛ぶのを補助する役割だから、羽ばたかなくても問題はないけれど、羽ばたかせてみたらまた可能性が広がったりするのだろうか。
ただやっぱりこんな風に、魔力を形にしているというのもあって魔力の消費量は激しい。長時間使うことは現状難しいだろう。使い方もまだ未知数だし。
だけど、この翼をもっとうまく使えるようになれたのならば、私はもっと皆のために動けるだろうか。
「使い心地なども教えてくださいね。レルンダのことはちょっとしたことでも記録していきたいのだもの」
「うん。教える」
「新しい絵本も作りたいですし。もっと大人向けに編纂したものも作りたいですし。まだ形にはなってませんけど、学校も作っていく予定ですからね。その時にはちゃんと教科書も作りたいですもの。そのためにはもっと此処を街や国にしていかなければなりませんし……。神子についての研究も続けて……ブツブツ」
あ、ランさんがまた自分の世界へと入って行ってしまった。
ランさんは本当に自分がやりたいことに関して、ブレずに向かっていく。そういう所が好ましく思う。
翼を少しだけ動かしてみる。……案外、動かすのも難しかった。魔力でつながっている翼だから、魔力を動かして、翼を羽ばたかせるように見せるということだ。
ビラーさんたちのように、本来体の一部として持っているものではないので、難しいのも当然かもしれない。
それにしてもビラーさんたちと出会って、形になった魔法だからか、ビラーさんたちの背中に生えているものと少し似ている。私の中のイメージがそんな風に固められていたのかなって思う。
「ぐるぐるぐるっ(翼、凄い)」
「ぐるるるるうるるるるる(触っていい?)」
キラキラした目で私の翼を見ているのは、子グリフォンのレマとルマの兄妹だ。
レマとルマも出会った時より大きくなっている。もっと大きくなって、いずれ成体になっていくのだろう。
「うん。優しくね。びっくりしたら、魔力解いちゃいそうだから」
「ぐるつ(うん)」
「ぐるるるるるるっ(わぁ、ふわふわ)」
床に座った私の翼に、嘴や翼を近づけてレマとルマは嬉しそうに声をあげている。
それにしてもふわふわなんだ。触ってなかったから知らなかった手を後ろにやって、ちょっと触ってみる。
少しふわふわしてる。特に意識してふわふわにしようとか考えてなかったけれど、なんだろう、これも私のイメージの結果かな?
自分の背中にあるから触りにくいけど、十分ふわふわで触り心地が良い。ふわふわな感じになっているから魔力消費激しいのかな? とか考えてたら魔力が大分減ってしまったのか、一旦翼が消えた。
「ぐるぐるるうる(消えた?)」
「ちょっと、魔力減ったから。これは結構魔力使うから長くは無理みたい」
ふぅ、と息を吐いて、座ったままルマとレマをぎゅっと抱きしめる。
そんな風にレマとルマとのんびりしていたら、ようやくぶつぶつ言っていたランさんが正気に戻った。
「はっ、すみません。レルンダ、ルマたちも……」
「いいよ、ランさん」
私がそう言えば、ランさんは優しく笑ってくれた。
「レルンダ、その翼で何が出来るか、どういう可能性があるのかどんどん研究していきましょう。それはとても大きな力になりますわ」
「うん」
「レルンダは空の神の影響を受けているということですから、きっといずれもっと空を自由に飛べるようになるのではないでしょうか。とても素晴らしいですわね。私にはそういう力はありませんから、余計に凄さを感じますわ」
私は空の神の影響を受けている。だからこそ、もっと空を自由に飛べるのだと、ランさんは確信したように言った。
「――ランさん、私がもっと飛べるようになったら……、そして大きくなったらランさん抱えて飛びたいな。そしたら、ランさん自身は飛べなくても飛んでるのと一緒だよ」
「ふふふ、それは楽しそうですわね。そうですね。もっとレルンダが飛べるようになって、そして私を抱えられるぐらいになったらお願いしましょうか」
「うん。私、頑張る。空から見る景色、ランさんと一緒に見たい」
一つ、目標が出来た。
もっと飛べるようになって、もっと大きくなれたなら――、ランさんを抱えて飛びたいなって思った。
私はまだ子供だけど、大きくなったらきっと出来ると思うから。
大人になるのが、楽しみだ。
――少女と、翼 1
(神子な少女は、女史を抱えて飛ぶことを夢見る)




