少女と、拾いもの
「ぐるぐるぐるるう(これ、作ったからあげる!)」
「ユイン、つく、ったの?」
「ぐるぐるるるるるるるうう(そう兄さんと一緒に!!)」
子グリフォンの一人であるユインが、朝から得意げな顔をして、木の枝を組み合わせて、紐で縛ったりして出来た置物をくれた。家の形をしている。私の両手に収まりきれないような置物をなぜか作ったらしい。
リオンとユインの兄弟は、あの獣人たちを運ぶための籠を作った時からものづくりの楽しさに芽生えたのか、楽しそうに色々作っている。最初は良く分からないもの作っていたけれど、獣人の村で過ごすうちに、置物とかもいい! と思い出したのか器用に作っている。兄弟仲良さそうに物作りをしているから、母親のワノンが優しい目で見つめていて、温かい気持ちになった。
「あり、がとう」
「ぐるぐるるるる、ぐるるるる(喜んでくれて嬉しい! もっと、作る)」
リオンはそういってからはっとなった。
「ぐるぐるるるるる(洗うの忘れてた!)」
外からユインはやってきたからか家の床に足跡がついている。ユインははっとした顔をしている。家の中に入る時は、汚れが付かないように足を洗ってからにという約束だったのだけれど洗い忘れてきてしまったらしい。しまったという顔をするユインが何だか可愛い。怒られるかなという顔で私を見ている。
「今度から……気をつけて」
「ぐるぐるるる(ごめんなさい)」
「いい。……外、出る。私、掃除」
とりあえずこれ以上床が汚れないように外に出るように言えば、ユインは素直に外に出ていった。私は家の外にある井戸から水を汲んで、その水で顔を洗う。その後に、雑巾を少しだけ水で濡らして、ユインの足跡を拭いた。
「ぐるぐるるる?(怒ってない?)」
「ん、気をつければ、いい」
「ぐるぐるる!(気をつける!)」
いそいそと床の足跡を拭いていたら、家の外から中を覗いていたユインに話しかけられた。別に怒ってはない。
その日はそんな会話をしてから、一日が始まった。
獣人の村での生活は楽しい。大好きな人たちが笑ってくれて、私のこと、大切だってそういう態度を示してくれて。それが、私は嬉しい。心がぽかぽかして、毎日が、嬉しいで溢れている生活が出来て、私は今、幸せって状況なんだと思う。
ぽかぽか、温かい。皆が、大好き。毎日、楽しい。
それを感じて、思わず口元が緩んだ。
皆のために、私が何か出来ることないかなとそんな風に思う。だから、進んで私が出来ることをお手伝いするの。出来ることはそこまで多くないけど、大好きな皆のためにやりたいと思うから。
生まれ育った村で、やることを押し付けられていた時は淡々とこなしていたけど、「ありがとう」と言ってくれる、皆のためにやるの、楽しいの。笑ってくれることが嬉しいと思うから、いくらでもお手伝いが出来たらって思う。
薬師のお姉さんのところでは、採取や調合について少しずつ学んでいる。私は神聖魔法の適性があるらしいけど、現状は自由に使える力でもない。それならば、薬師のお姉さんに沢山学んだ方がいい。そしたら、誰かが怪我した時、誰かのためになれるって思うから。
薬草と毒草は案外似ているから、気を付けなければならないとも学んだ。実物を見せてもらったけれど、正直違いを見分けるのが難しい。違いを言われてわかるけど、言われてなければ分からないような違いだった。葉の裏側を見て見分けるんだそうだ。薬師はそういうのを見分けられて凄いと思った。
そして薬草について学んでいるうちに、世の中には人にとって毒のあるものって案外沢山あるのだなと思った。私がご飯をもらえずに外に出てお腹壊すものとか一切食べなかったのって本当、運が良いとしか思えない。
森の中へ薬草を採取に向かう時は、グリフォンたちと一緒だ。でも子供だけでは心配だからって大人の獣人もついてきてくれる。グリフォンたちやシーフォのうちの誰かがついてはくるけど心配だからって。
今日は、ドングさんがついてきてくれた。
ドングさんは最初にグリフォンの巣にやってきていた獣人のうちの一人だ。
大きな体をしていて、筋肉が凄い。
あと身体強化の魔法を使える数少ない存在ということで、最近ドングさんが忙しくない時に習っている。
今日はワノンとレイマーと、あと子グリフォンの一匹のルミハがついてきてくれた。
私はレイマーの上に乗って、移動。
とはいえ、飛ぶわけでもなく地面を皆で移動しているのでその横をドングさんが一緒に歩いている。
薬草が生えている場所を探して、見つかったらレイマーから降りて採取する。薬草と毒草を見分けることも重要だけど、採取の仕方次第でも薬草の良しあしが変わるから慎重に、薬草が傷つかないようにナイフを使う。
その間ドングさんは喋らない。
ドングさんは無口な人だ。なので、私とドングさん二人だとほとんど無言の空間が出来上がる。
ドングさんは私が採取をしている間、周りの警戒をしたり、あとはドングさんが狩りの時に使う斧をふるって鍛錬をしたりしている。身体が大きい人が斧を振るうと、凄くかっこよかった。
以前、「かっこ、いい」といったらドングさんはちょっと照れたように顔をそらした。ちょっと耳が反応していた。獣人たちは耳と尻尾で、感情がわかりやすい。
レイマーは私たちの側にいる。けど、ルミハが散歩したいとかいって飛び出したのでワノンも追いかけていったから二匹はこの場には今いない。
黙々と、採取を続ける。
結構失敗した。上手くできなくて出来の悪い薬草になってしまったりする。いつか、もっとちゃんと得意になりたい。薬師のお姉さんが採取した薬草、凄く綺麗だった。私も、あんな風に出来るようになりたい。
時々上手く出来た時には、何だか嬉しくなった。ドングさんに無言で、上手く出来た薬草を見せたら、ドングさんは頷いて、私の頭を撫でてくれた。言葉はないけど、私とドングさんはなんだかんだで通じ合えている気がした。
と、そんな風にしながら採取を続けることしばらく。
「ぐる、ぐるるるるるるる(レルンダ、拾ったんだけど!)」
と、言いながら、ルミハが草むらから飛び出してきた。その後ろには困った表情のワノン。宙をちょっとだけ浮いているワノンは、前足で一人の人間をつかんでいた。
「ひと?」
「ぐるぐるぐるるるるる(ルミハをおいかけて結構先までいったら倒れてたの)」
「大変」
「ぐるぐる。ぐるるるるる(そうなのよ。まだ生きているみたいだから連れてきた)」
ぐったりしているらしいその人は、まだ生きているらしい。なら、助けなきゃ。
ぐるぐるるうううううううううう。
助けなきゃと思った時、大きな音が響いた。お腹の、音? 凄く、大きくてびっくり。
この人、おなかすいている? それで倒れてたのかな。
そういう結論に至ったため、急いで村に戻って何か食べるものをあげることにした。ドングさんは拾ったのが人間であることに少しだけ渋い顔をしていたけれど、結局その人を抱えて村にまで連れて行ってくれた。
―――――少女と、拾いもの
(多分、神子な少女が採取をしている最中に、グリフォンが人を拾ってきた)