少女と、翼を持つ者たちの神様 3
「ドラゴンさん、お名前は?」
私とドラゴンさんとフレネだけになって、私はふと名前を聞いてないことを思い出して、問いかけた。
私はドラゴンさんの前に立ち、フレネはそのすぐ傍に存在している。
「――俺の名前か。俺の名は、ドウロェアン。遥か昔に、呼ばれた名よ。久しく誰にも呼ばれていない名だが」
ドラゴンさんの名はドウロェアンと言うらしい。
「ドウロェアンさん。神子のお話、聞かせて?」
「よかろう。神子よ、名は?」
「私はレルンダ」
「私はフレネ!」
「レルンダにフレネか。近くによれ。話をするから座っていい」
「うん」
「ええ」
私とフレネは、ドウロェアンさんの言葉に頷いて、近寄る。体に触れるぐらいの距離で座り込んでもいいだろうか。
ドラゴンの鱗って触ったことがないから、正直言って触ってみたいなって気持ちも強い。ドウロェアンさんのことが怖いとは思わないから、余計、こう、触ってもいいのかなってうずうずしてしまう。
「……ねぇ、ドウロェアンさん、近くに座って、鱗、触ってもいい?」
「……俺を触りたいのか?」
「うん。撫でたい」
私の言葉に、ドウロェアンさんは少し黙った。怒らせてしまっただろうかと、不安になったが、次に聞こえてきたのは笑い声だった。
「はははは、流石神子と言うべきか。それともレルンダが鈍いのか。俺を見て、撫でたいなどと真顔で言う子供などそうはいないぞ。気にせず、近くに寄って構わない。撫でてもらっても構わないが、逆鱗には触れてくれるな。……我慢も少しは出来るが、暴れることになるだろうからな」
ドウロェアンさんはそう言ってくれた。なのでお言葉に甘えて、近くに寄ることにする。その間に触ったら駄目な逆鱗の場所も聞いたのでそれには触らないようにする。
足元の部分に近づいて、そこにすり寄るように座り込む。
フレネは、「レ、レルンダっ。さ、流石ね。私は流石にそこまで近づくのは無理だわ」と言って、少し離れた位置にいる。
ドウロェアンさんの手足は太い。鱗に覆われていて、鋭い爪が伸びている。見た目からしてもとても強力な力を持っているのが分かる。手を伸ばす。鱗は、ひんやりとして気持ちが良い。なんだろう、もふもふとしたグリフォンたちに触れた時とはまた違った気持ちよさがある。
思わず、気持ち良いなと一心に撫でてしまう。
「……いつまで撫でる気だ? 話をするのではなかったか?」
「あっ、ごめんなさい。気持ちよくて、思わず……。お話はしてほしい」
撫ですぎてしまったので、慌ててそう言って撫でるのをやめる。
「――それで、何が聞きたいのだ」
「神子について。私、詳しくない。私、自分が神子だって自覚は持ったけど、何が出来るかとか、そういうことも分かってないから、色々と教えてほしい。それで、最初は出会った神子についてとか、聞きたい」
「俺が出会った事のある神子か。直接会った事があるのは、最近だと二百年ほど前の神子だろうか。それは人ではなく、魔物だったが」
「……魔物も神子に?」
「そうだ。神子というのは何も人だけを示すものではない。ありとあらゆる生物をさすものだ。神が気にかけている存在が神子であるが。神が気に掛けるのは何も人だけではない。その魔物はか弱い栗鼠の姿をした魔物だったが、寿命を全うして森で死んでいった。尤も神子であるから少し平常よりも長生きしていたが。その神子は人には知られずに死んでいったが」
「そうなんだ……。平常よりも長生きってのは?」
「神子はその種族よりも少しだけ長生きする。病気にはなることは滅多にないというのもあるが、神が気にかけているから当然と言えば当然だろう」
となると、私も少しだけ長く生きるのだろうか。まだ十一年しか生きていない私にはぴんと来ないけれど、皆と少しでも長くいられると思うと嬉しいと思った。
「あとは、何百年前かは覚えていないが、人の神子とも会った事がある。俺を討伐しようとやってきて、結局友人のようになった神子だが」
「いろんな、神子がいるんだね」
「そうだな。そして神によって、どんな生物に好かれやすいかも変わる。レルンダの場合は空の神の影響が強いからこそ、空を飛ぶものに影響がある。ただ影響があるのはあくまでも神の影響が強いものに関してだ。だから他のものには影響は小さい。だからこそ、神子とはいえ、誰もに好かれるわけではない。場合によっては神子は迫害されることもある。レルンダも覚えはあるのではないか? こんな森の中で暮らしているというのはそういうことだろう?」
ドウロェアンさんの体にべたっとくっついて座ったまま、私は話を聞いている。神子を知っている存在から聞く神子の話は、今まで知らなかったことを沢山知ることが出来る。
「……うん」
生まれ育った村で、私は友達も愛情も知らずに生きていた。それはそういう影響力がないからだと言えるのだろう。
「ドラゴン様、聞きたいのだけど、神子の力って神様から影響が与えられる力なのですよね? それって神様が自由にレルンダのことを助けられるってことかと最初は思ったけど違うみたいだし、実際はどうなんですか?」
話を聞いていたフレネが、緊張したような面立ちでドウロェアンさんに問いかけた。
「――そういうわけでない。神というのは直接的にこの地に影響を与えることはない。神の力と言うのは強大過ぎる。それはこの地への毒にしかならない。神子に対して神は加護のようなものを与えているが、それはあくまで直接与えているわけではない。そうだな、いうなれば神子に与えられているものはほとんど自動的なものだ。神自体が神子の行動に一つ一つ影響を与えるのではない。レルンダの場合は最初から空の神が加護のようなものを与え、自動的に少しだけ空を飛ぶものに好かれやすくなっているということだ」
ドウロェアンさんはフレネの言葉にそう答えた。
――少女と、翼を持つ者たちの神様 3
(神子な少女は、神子と言う存在についてのことをそうして知っていく)




