少女と、少年の葛藤 3
私はガイアスの言葉を待つ。
ガイアスは口を開いた。
「俺はやっぱり、父さんが殺されなければならなかったことに対して割り切る事なんて出来ない。今、こうして獣人の味方をしてくれるなら、どうして、父さんを殺す前にその決断をしてくれなかったんだとそんな風に、どうしても思ってしまうから」
「うん」
もし、王子様がもっと早くに決断をしてくれていたら。もしかしたらアトスさんは死ななかったかもしれない。それは考えても仕方がない事だろうけれども、どうしても考えてしまうもしかしたらの話。
「父さんが、死ぬ必要なんてなかったはずだ。……ニルシさんの村の獣人達だって大変な目にあっているのに。俺は――自分の父さんが殺されてしまった事ばかり考えている。ニルシさん達だって、つらい思いをしているのに、俺は、あいつらを許せないとか、そういう事ばっかり考えている」
「うん」
「こんな感情、誰かに言ったら駄目だと思って……。嫌われてしまうとか感じて、だから……誰にも言えなかった。誰にも言わずに、ずっと考えてたら頭の中がこんがらがってきて、どうしたらいいか分からなくて、考えないようにしようと思ってた」
「うん」
「……でも幾ら考えないようにしようとして、体を動かしてひと時は考えずに済んだとしてもまたすぐに考えてしまう。こんな事を、考えたら駄目だって押さえつければ押さえつけるほど、どうしてなんだって気持ちが湧いてきて、どうしたらいいか分からなくなる。もしかしたら俺は、いつかあの騎士達に襲い掛かってしまうかもしれない……」
「……大丈夫。ちゃんと私も、ランさんも、皆見ているよ。ガイアスは殺したいって気持ちはあっても、本当は殺したくないでしょう」
本当に殺したいと思っているのならば、こんな風に葛藤などしない。殺してしまえたら楽だというのならば、私にこうして吐き出す事も、一人で苦しむこともせずに行動を起こした事だろう。
ガイアスは、私がガイアスの事を嫌いになるんじゃないかって不安がってたみたいだけど、私がガイアスを嫌いになる事は、きっと一生ないと思う。だって、人は変わっていくものだけど、ガイアスは私の大好きなガイアスのままだから。
ガイアスが優しいガイアスだからこそ、こうして葛藤をしているんだと思うから。
だから、私はガイアスがそのまま憎しみに捕らわれてしまわないようにちゃんと見てあげようと思った。私だけじゃなくて、他の皆だってガイアスが抱えている気持ちを知っても誰一人ガイアスの事を嫌いになったりなんてしないと思う。私達は同じ志を持っている仲間なんだから。
「――ガイアス、その気持ち、抱えてて大丈夫。どうしても抑えきれないなら、私はいつでも話を聞く。私だけじゃなくて、ランさんやドングさんだって、イルケサイ達だって、皆、話を聞いてくれるよ。気晴らしにだって付き合う。ガイアスの事、大切だし大好きだから」
私がそう口にすれば、ガイアスは目に涙を溜めていた。びっくりする。
「ガ、ガイアス、どうしたの?」
「俺は恵まれてるなと思っただけだよ。それが嬉しかったんだ。ありがとう、レルンダ」
ガイアスは笑みを溢してそういって、涙をぬぐう。
「気にしないで。私も、ガイアスに沢山助けられてるから。お互い様。ガイアス、もやもやしているなら、思いっきり走り回ったり、叫んだりしてみる? 狼の姿でそれやったら少しはすっきりするかも。ガイアスと私だけで行くの危険かもだから、グリフォン達も一緒に行くことになるだろうけれど……」
私はガイアスに提案をする。
少しでもガイアスがすっきりしないかなと期待して。
思いっきり大声を出して、ため込んでいるものを吐き出したらどうかと思ったんだ。そしたら、少しは楽になれるんじゃないか。その気持ちがなくなるわけではないけれども、それでもガイアスのためになると思ったから。
それに狼の姿で声をあげるのならば、周りに聞かれても問題がないだろうし。
私の言葉に、ガイアスは「ああ」と笑ってくれた。私に吐き出して、少しは楽になったなら良かったと思う。
「ドングさん達にも、相談してみる」
「うん」
ドングさん達にも相談をするのだというガイアスは、すっきりした顔をしていてほっとした。
ガイアスの考えている事を、全て理解する事なんて出来ないけれども、こうしてガイアスのためになれたのならば嬉しいと思う。
私のすぐ隣でフレネは「人間って大変」とつぶやいていたのだった。
ふとフレネに指をさされてそちらを見れば、ランさんとニルシさん、シーフォやレイマーたちが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。
ガイアスは、やっぱり皆に好かれている。皆、ガイアスが大好きだからこうして心配してるんだ。
ガイアスは皆に好かれてるんだ。どんな感情を持ってても嫌われたりしないんだ。と、そこまで考えてもしかしたら私が初めて神聖魔法を使って倒れた後のガイアスも似た気持ちだったのかなと思った。
自分なんてどうでもいいといった私にガイアスは、怒った。
私は今、嫌われてしまうかもしれないというガイアスに大丈夫だって言った。
あの時、ガイアスの言葉が嬉しかった私が、こうしてガイアスの助けになれることが嬉しいと思った。
「ガイアス、ランさん達、いるよ」
「え、あ、本当だ」
「皆、ガイアス、心配してる。ちゃんと見とくから、安心してね」
「……ああ」
大好きな人達と、私は支えあって生きていくんだ。
――少女と、少年の葛藤 3
(神子の少女は、獣人の少年の助けになれたことを嬉しく思う。そして彼らは支えあって生きていくのだ)




