少女と、魔法の話 1
「ガイ、アス」
「ガイアス、あの、ね」
あの日、ガイアスに怒られてから、私はガイアスたちが、この村の人たちが大好きだって、大切だって改めて思うようになった。ガイアスが大切だって言ってくれた事が、本当に嬉しかった。嬉しくて、ガイアスに前よりも自分から進んで話しかけるようになった。
喋ることは相変わらず苦手だけど、それでも生まれ育った村にいた頃よりは私は喋るのが得意になってきたと思う。最近は、話すことが楽しいとさえ感じている。
私が治したらしい獣人のお兄さんにはそれはもう感謝をされた。それと同時にお兄さんにも、「でも無茶をしたら駄目だ」と言われた。お兄さん、優しい。他の獣人たちだって、倒れた私を心配してくれた。その様子を見て改めて、倒れるほど無茶をしないようにしようって私は思ったんだ。
グリフォンたちにも心配をされた。子グリフォンたちなんて私が何か無茶をするかもしれないってずっと私の周りをうろうろしていた。レイマーにも、「ぐるぐるぐるるうう(心配したから無茶しないように)」と言われた。シーフォにも、同様のことを言われて、嬉しかった。
こんなに心配してくれているんだって。
ぽかぽかした気持ちの心が、もっと温かいものになった気がした。
私は皆の役に立ちたいってもっと思うようになって、魔法というものをちゃんと使えるようになりたいって思った。でも、元々獣人は魔法が使える者が他の種族よりも少ない種族だと聞いた。身体強化の魔法というものぐらいは使えるものがいるが、一般的な魔法は使えなかったりするらしい。加えて私が獣人のお兄さんを治したような怪我を治したりする神聖魔法と呼ばれるものに関しては使えるものは限られているらしい。
そんなわけで魔法の練習などは出来ていない。魔法が得意な人でも、村に来てくれたらいいのになとそんな風に思った。ただ知識としてはおばば様が魔法について知っているから教えてもらってはいるけど。
そういえば、この前、村で育てている作物の収穫が行われた。私もお手伝いをした。私は子供で、力も弱いからそこまで力にはなれなかったけれど、頑張ったの。その時にね、昨年よりも収穫量が多いって皆が喜んでいた。私も嬉しくなった。
昨年は虫の魔物による作物への被害が多かったんだって。そういうの、実際にあるんだね。私の生まれ育った村は環境が良かったのか、少なくとも私が記憶している限りにはそういう被害はなかった。寧ろ恵まれていた方だと思う。というか、恵まれていて生活に余裕が少なからずあったからこそ姉への貢物をする余裕とかあったんだろうし。
グリフォンたちやシーフォが魔物を狩ってきてくれるおかげで魔物による怪我人も減ったとアトスさんが喜んでいて、いいことが続いて嬉しいなと思った。
「レルンダちゃんと、ガイアス君は仲良しだねぇ」
「レルンダはガイアスのこと好きなの?」
目の前でにこにこと笑っているのは、この村の子供である二人だ。おっとりした喋り方のシノミと、元気な女の子のカユ。
私と仲良くしてくれている二人の女の子だ。
男の子四人とはそこまで仲良くは出来ていない。というか、髪を切ってから会った時によく分からない対応されたし、とりあえずいじわるはされなくなったから良かったかなとは思っている。
「ん、だい、好き」
ガイアスのことは本人に言ったように大好きだ。
優しくて、温かくて、一緒に居て嬉しくなる。
私が大好きと言ったら、何だかカユが騒ぎ出した。
「そうなんだー。いつから、好きなの?」
「……カユちゃん、多分レルンダちゃんがいっているのはカユちゃんが期待している意味ではないと思うよー?」
カユの言葉に私が答える前に、シノミが良くわからないことをカユに言った。何を言っているんだろう? そしてシノミが私に向かって問いかける。
「レルンダちゃんは、私とカユのこと好き?」
「ん、だい、好き」
「ありがとう。私もレルンダちゃんのこと、大好きよ。ガイアスを大好きなのと、私たちを大好きなのって一緒でしょう?」
「ん? うん」
何を聞かれているか分からなかったけど、私は頷く。
ガイアスのこと、大好き。
シノミとカユのことも大好き。
三人とも優しい。私に笑いかけてくれる。
「初めて。女、友達」
シノミとカユは私より少しだけ年上だけど、初めての女の子のお友達。
初めてのお友達はガイアスだけど、同じ女の子のお友達のはじめては二人だ。
友達が全然いなかった私に、三人もお友達が出来るなんてそれだけでも本当に嬉しい。
「二人とも……優しい。だい好き」
「もー、レルンダは可愛いなぁ!!」
カユに思いっきり抱きしめられた。カユは私よりも背が高くて、少しだけお姉さんだから私はちょうどカユの胸元に顔を押し付けられる形になった。ぎゅって、抱きしめられるの嬉しい。でも、ちょっと苦しい。
「カユちゃん! レルンダちゃんが苦しそうだよ」
シノミがそういってくれたから、私は解放される。
「レルンダ、ごめん!」
「いい、よ。ぎゅっ、は嬉しいから。でも、ちょっと、苦しい」
「もっと力弱めて抱きしめるのはいい?」
「ん」
頷いたら、ぎゅってしてくれた。さっきよりも力が弱い、ぎゅっだ。抱きしめられることなんて生まれ育った村ではなかったけど、ぎゅってされると凄く嬉しくて温かくなるんだなって獣人の村にきて初めて知った。
「レルンダ、いるか、って何してんだ!」
「ガイアス、羨ましいの? ガイアスもレルンダのことぎゅってする?」
「ば、ばか! 何言ってるんだよ。カユ!!」
カユとシノミと話していたら、ガイアスがやってきた。ガイアスとカユの話を聞きながら、私はカユにぎゅってされたまま、顔を動かしてガイアスの方を向く。そして口を開く。
「ガイアス、ぎゅって、する?」
「レルンダは、ガイアスにぎゅってされても平気なの?」
「ん。ガイアス、大好き、だから」
ガイアスにぎゅって抱きしめられたことはないけど、カユに抱きしめられるみたいに温かい気持ちになれるかなって思うから全然かまわない。大好きな人に、ぎゅってされるのは嬉しいことだと思うから。
「……レルンダ、おばばが呼んでいるから行くぞ」
「ガイアス、顔、どうしたの?」
「……いいから、行くぞ」
ガイアスにそっぽむかれた。結局ぎゅっはしないらしい。してくれたらいいのに。してくれたら、きっと心がぽかぽかするのになと思った。
カユとシノミに「また、ね」と言ってガイアスに手を引かれて、おばば様の所へ向かう。
ガイアス、ぎゅっはしてくれないけど、手は引いてくれる。ガイアスに手を引かれるだけでも、なんだか嬉しくなるんだ。だからね、ぎゅって抱きしめられたら、手を引かれる以上に幸せな、温かい気持ちになるんじゃないかって思うから、一回ぎゅってしてくれないかなと思うんだ。でも、ガイアス、ぎゅってはしてくれないんだよね。頭を撫でてくれたりはしてくれるんだけど。
そんなことを考えながら村を歩いて、おばば様の元へ向かった。
おばば様の用事は、魔法についてのお勉強だった。
―――少女と、魔法の話 1
(多分、神子な少女はおばば様から魔法についての知識だけでも学び始めるようです)




