少女と、会議 3
「では、金銭の対策についてはこちらで部隊を選出し、探索してもらうという事にしましょう。少し時間がかかってしまうかもしれませんが、金銭を手に入れてから奴隷となってしまっている者達の救出に向かうという事で進めていこうと思います」
ランさんは周りを見渡して、そう言い切ってから次の話題に移る。
「次にこれからのために必要な事として、もっと力をつける事です。これは武力的な面での話にもなります。話し合いで正面衝突する事なく進められるのが一番でしょうが、それは難しいと言わざるを得ません。何かが起きた時には実力行使をしなければならない事もあるでしょう。戦う術を何も持っていなければ、殺されてしまって終わりです。私も戦う事は出来ないと、戦う術を学んでいませんでしたが、これからは私でも戦える術を身に着けていこうと思っています」
ランさんは魔法を使う事も出来ない。獣人のように身体能力もない。エルフのように精霊が見えるわけでもない。——だけど、ランさんは自分も戦う術をもっと身に着けていくと言った。
「誰かに守ってもらう事を期待するのではなく、自分の身を自分で守れるようにする事。それが私達のように少人数だからこそ目指さなければならない形なのではないかと思っています。また、もしどこかの勢力に村が襲われたら――という可能性をもっと考えて、シミュレートしていくことも大切でしょう。これについてはドングさんやシレーバさんが主導で進めてもらおうと思っています」
ランさんの説明に、ドングさんとシレーバさんは頷いている。
このままではいけないと考えたからこその言葉。誰かに守ってもらうではなく、自分の身を自身で守れるように目指すという事。それは私達が国という大きな団体ではなく、村という限られた人数しかいないからこそ必要な事だ。
「あとはもう少しきっちり役割を決めていくべきだと考えています。今はそれぞれ生活に必要な分の畑を耕したり、狩りをしたりと役割を決めずに皆で行っています。それを役割をきちんと配分してやってもらう形に移行していければと思います。いずれ、この村でもそれを仕事と言う形にして、報酬を金銭で与える形にしていくべきだと考えています。私達の村がいずれ目指す所は、国であると私は望むからです」
目指すところは、国だと、ランさんは言った。
大きな大きな夢。——その夢は、ガイアスと私の誓いから来ているんだと思うと、不思議な気持ちにもなる。
村としての形から、国としての形へ。
その変化が、私達の目指す――皆が安心して過ごせる場所を作るために必要な事なのだ。
ランさんの言葉を皆が真剣に聞いていた。
此処にいる人たちは、皆が居場所を奪われてきた。
獣人達は故郷を追われ、永住地を求めた。
エルフ達は魔物の被害により大切な精霊樹が消滅しかけ、復活の場所を求めた。
民族の人達は王国に襲われ、逃げ、此処にたどり着いた。
居場所を奪われてきたからこそ、平穏なこの場所がもう二度と奪われる事がないようにしたいと皆が望んでいる。
もちろん、不安そうな顔をしている人だっていないわけではない。
村から国を目指すにあたって、様々な変化が此処には訪れるだろうから。
「もちろん、急に体制を変えていくつもりはありません。ただ、この場所をいずれ国へと成長させていく事は私達にとって必要な事です。この場所にはレルンダがいます。そして精霊樹があります」
ランさんはそう言って、私の方を見る。
「欲深い存在がこの村を見つけた時、真っ先に私達から奪おうとするのはレルンダと精霊樹です。神子であるレルンダは、それだけ欲深い存在にとっては喉から手が出るほど求めるものです。また精霊樹はこの村の中でも一際目立つ特別な木です。もし、この村を知ったら真っ先に手を伸ばそうとするでしょう。すべてを手に入れようと考えるような存在も敵として現れるかもしれません。その可能性を考えれば、私達は決してこのままでいいとは言えません。幾ら力をつけたとしても足らないぐらいに私達は弱者であると言えます。数の暴力に負けて、私達はバラバラになり、逃げ惑わければならなくなるかもしれません。そうならないためにも、私達は力が必要です。必要なのは敵を害するための力ではなく、私達自身を守るための力です。まずは自分を守れる力を手にして、周りを守る力につなげていく事ですね」
はっきりと言いきったランさんは、やっぱりかっこいいと思ってならない。
私は神子という存在だから、周りに狙われてしまう可能性が高い。私が誰かに捕まったりしたら、皆が大変な状況に陥ってしまうかもしれない。——私は皆を守るための力が欲しいとずっと願っているけれど、自分自身も守れなければ意味はない。
「まず、国として成長させるにあたってどういった事が必要だと思いますか?」
その後、そんなランさんの問いかけに、皆が真剣に答えていくのだった。
――――少女と、会議 3
(神子な少女の村は、国を目指して歩み始めている)