少女と、会議 2
金銭を手にするための政策を行うべきだと、ランさんは言った。
私たちの今の生活は、すべてがこの村一つで完結してしまっている。他の場所は何の関係もなく、この村だけで自給自足が出来ていて、他との関わりを必要としていない。
そんな状況を、壊してしまおうとランさんは言っているのだ。
それは大きな賭けのようなものだと言える。
このまま閉じこもってしまっていれば、束の間の平和は保たれる。少なくとも外の人達にこの村の存在を知られない限り、このまま穏やかな日々を過ごせるだろう。
この状況を壊してしまえば、外からの刺激や影響を受ける事になる。それは村にとっても良い影響を与えるかもしれないし、悪い状況を与えるかもしれない。もしかしたら私達全てを奴隷に落とそうとする人たちも現れるかもしれない。此処に村があるのだと悟られればそれだけ危険が舞い込んでくる。
敢えてランさんは外と接触するべきだと、言った。
その意見を口にして、そうするべきだと行動しようとするランさんはやっぱり凄い人だと思う。平和な日々が続いて欲しいと思ってしまう私と違って、前を見ている。そうやって前を見据えて、先の事を考えて意見を口にするランさんだからこそ、私はランさんの事が大好きで、尊敬するんだ。
「それで、金銭を手にするための政策といったが、何をする気だ?」
「そうですね。此処に村がある事は秘密にした状況で、まずはこの村で生産をしている物を売ってみるのが一番かと思います。ただ、辺境の村ではお金ではなく物々交換が行われています。なのでそれなりに大きな街に行かなければならないでしょう。そこでお金を少しでも入手する事は村にとっても重要な事です。いずれはこの村も街としての形に移行するためにもすべてを金銭でのやり取りを出来るようにすべきだと思います」
この村の存在を知られないようにしながら、他の場所に物を売りに行く。そしてお金を手にする。
私の生まれ育った村でも基本的に物々交換をしていた。それは私が生まれ育った村が都会ではなかったから。大きな街ではお金で取引がされている事はおじいさんに聞いた事があったけれど、実際に使った事はない。
だからこそ、それなりに大きな街での取引をする必要がある。
「ミッガ王国やフェアリートロフ王国まで行き、取引をするのは危険でしょう。奴隷に落ちてしまった者達を助けるためにはいずれ足を踏み入れなければならないでしょうが、まずは他の場所を目指すのが一番だと思っております。この森の先に、人が住んでいる場所があるかは分かりませんが、周辺の探索を進めていくべきだと思います。森を抜けた先に人の住んでいる場所があるというのならば、まずはそちらに対してどのように接触していくかを考えるべきでしょう。金銭的な取引をすることが出来そうならば取引をするべきだと私は思っています。ただ、どのような考え方を持っているのかなどが分かりませんから、そのあたりは慎重にならなければならないでしょう。というわけで、金銭的な取引をするためにもまずは周辺の探索の範囲をもっと広げていこうと私は提案します」
ランさんの言葉に皆がそれぞれ意見を言い合う。
私は、もっと行動範囲を広げる事は賛成する。正直、どうなるか分からないという恐怖はあるけれども、それでも私達が安心できる場所を本当の意味で作るためにはこのままではいけないのだという事も分かるから。
危険な事だってもちろんあるかもしれないけれども、それでも私はガイアスとあの日誓ったから。
ガイアスをちらりと見る。ガイアスは真剣な目でランさんを見ていた。あの日、二人で話して、誓った記憶。それは私の頭によく残っている。
ガイアスが、もうこんなことが起きないようにしたいと、大切な人が危険な目に遭わないようにしたいと言った。皆が笑いあえる、安心できる場所を作りたいんだと、あの日、言った。
そのガイアスが口にした願いが、皆の願いへとなって、こうして、少しずつそれを叶えるために私達は行動を起こしている。
変わる事を恐れていては、きっとその願いは叶わない。
このまま閉鎖された村のままでは、あの日誓った私たちの願いは達成されない。
「私も、ランさんの意見に賛成する。誰も、危険な目に遭わないように頑張りたい、って思うから」
ずっと口を閉じていた私も、そんな風に皆に言った。
踏み出したいと、前に進みたいと願うから。——あの日の誓いを、ずっと覚えているから。
ランさんの提案に心配や不安を口にする人達ももちろんいたけれども、最終的に金銭を手に入れるための政策が行われる事は決定した。このままの状態でいるよりも、そうやって行動を起こした方が最終的な目標が叶うという事を皆理解していたから。最後まで反対していた人もいたけれどもそれは仕方がない事だ。全員の意見が一致するという事はまず難しい事だから。
―――少女と、会議 2
(神子な少女の村は、閉鎖された状況を打破する事を決定した。それが何を生むのかは、誰にも分からない)