少女と、会議 1
「ではこれから、この村のこれからの未来についての会議を始めます」
そう口にしたのは、ランさんだ。
ニルシさんが猫の獣人の人達を助けたいと口にした事も含めて、村に住んでいる皆や民族の者達の一部も含めて会議をしようという事になったのだ。
「まず、この村の目標の一つでもあった精霊樹の復活という目標が叶う事が出来ました。エルフの悲願でもあった事が叶ったのは良い事です。また、この村は二年の年月を経て、うまくいっていると言えるでしょう」
会議をするにあたって、会議を仕切っているのはランさんとドングさんとシレーバさんだ。ランさんは自分で作製した紙に会議で話し合うべきことをまとめてきたようだった。
この村が出来て二年近く。
ランさんが言っているように、うまくいっている。民族の人達が増えたり、翼を持つ人たちの接触があったりもしているけれども、この村は周りの手助けを借りずに自給自足が出来ている。
他の人々と関わらないでの生活が出来るように、整っている。周りと関わることなく、この穏やかな場所で朽ちるまで過ごす事が出来るほどに。
「生産も良好で、少しずつ発展もしています。しかし、私達の一番の目標である『皆が安心して、皆が笑いあえる場所を作る』という目標が叶っているかどうか。現状は叶っていると言えるかもしれません。しかし、それは周りの勢力の接触がないからこその平和です。何かきっかけがあれば、私達の平穏は壊される恐れが十分にあります」
ランさんは続ける。
私達の最大の目標である、『皆が安心して、皆が笑いあえる場所を作る』というのには、まだ足りないと。私達の今の平穏は、すぐに壊されてしまう恐れがあるのだと。
「そのため、私達はこのままではいけません。今の生活は確かに平穏で、続けられるのならばこのまま続けていきたいとさえ思います。しかし、このまま何も変革を進めずにいれば、最終的にこの場所が見つかった瞬間に国と言う巨大な組織に呑まれてしまう事でしょう。私はその事を、ニルシさんとの話を聞いてから余計に実感するようになりました」
ランさんはそう告げて、ちらりとニルシさん達――この場にいる猫の獣人の人達の方を見る。私達もニルシさん達の方に視線を移した。
「元々、ニルシさん達が私達に合流したのはミッガ王国が村を襲ったためでした。私と同じ人間である彼らは、獣人達に人権を認めていません。だから襲って無理やり奴隷にしました。そこからなんとか逃げ出し合流が出来たニルシさん達は、今こうしてここで生きています。でも、捕まっている人達は平穏とは程遠い暮らしをしているでしょう。ニルシさんは彼らを助けに行きたいと希望しました。その事について、皆の意見を求めます」
ランさんは私達を見渡すように視線を向けて言い切った。
まず、手を挙げたのはドングさんだった。
「俺は出来れば彼らを助けに行きたい。顔見知りである彼らを捨て置きたくない」
ニルシさんの村と、ドングさんの村は昔から交流があった。見知った人達が奴隷に落とされてしまっている状況は、ドングさんにとってもつらい状況だろう。
次に手を挙げたのはエルフのウェタニさんだ。
「私は救援には反対するわ。奴隷に落ちてしまっている状況は出来れば助けてあげたいと思うけれど、国を相手に助けに行くのは危険だわ。うまくいかない可能性の方が断然高い。寧ろ、助けに行って捕まってしまう可能性の方が高い。私は助けに行った人たちが捕まるのは悲しいから反対だわ」
そう口にしたウェタニさんは、赤子を抱いた状態で会議に参加していた。
ウェタニさんの言う事も私は納得が出来る。国というのは、私達が住んでいる村よりもずっと多くの人達が住んでいる。数だけで言えば、まず勝てない存在だ。
ニルシさんが最初に出会った時に、助けるのは無理だ、助けたくても助けられないと嘆いていたように、国に捕まって奴隷になっている彼らを助けに行く事はそれだけ難しい。ニルシさんのあの時の言葉を私は覚えているからこそ、助けに行こうとは簡単に口に出来なかった。
次に手を挙げたのは民族のヨンさんだった。フィトちゃんがヨン爺と呼んでいる高齢の男性だ。
「奴隷になってしまっている者がいるというのならば、助けに行きたいと思うのは当然でしょう。私達の仲間も何人かは捕まってしまっていると思われます。なので心では私は助けたいと思います。ただし、ウェタニ殿の言う事も尤もで、助けに行くことは危険です。穏便に済ませるのならば、それなりに金銭を用意して奴隷としてとらえられている彼らを買い取り、この村に連れて帰る事でしょうか。武力行使をしても勝ち目はありません」
ニルシさん達と同じくミッガ王国に追われた民族の人達も奴隷に落ちている可能性があるようだ。
「そうですね。それぞれの意見も尤もだと思います。武力行使して奴隷を解放するという事も出来るといえば出来るかもしれませんが、もしそれだけの事を行えばミッガ王国は混乱に陥ってしまうでしょう。敵対している国だからどうなってもいいという考えがあるのなら別ですが、奴隷はミッガ王国において重要な労働力でもあります。それが一気にいなくなるとなると、国はそれはもう混乱する事でしょう。一番良いのはヨンさんの言うように正当なルートで奴隷を買い取る事でしょうか。そのために必要なのはお金ですね」
ランさんは何人かの意見を聞いた後に、口を開いた。そして続けた。
「今、この村では硬貨は流通しておりません。この村の中ですべてが完結しており、お金という概念が必要なかったからともいえます。しかし、これからのためを思うのならばこの村の中だけで完結しているのはよろしくないでしょう。奴隷に落ちてしまった仲間達を助けるため、というのを含めて金銭を手にするための政策を行っていこうと思うのですが、どうでしょうか?」
そして、ランさんはそんな提案を私達にした。
――少女と、会議 1
(神子な少女の村では会議が行われる。取り仕切るのは女史の女性だ)