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少女と、新しい命の誕生

 ニルシさんの抱えていた、猫の獣人達の事を助けたいという願いはランさんがドングさん達に相談する事になった。



 しばらく涙を流していたニルシさんは、抱えていた助けたいという悩みを口にすることですっきりとした表情になっていた。私、一人ではニルシさんをこんな表情にさせる事は出来なかっただろう。ランさんが一緒に聞きに行ってくれたからこそニルシさんがすっきり出来たのだと思うと、ランさんの凄さをやはり実感してならなかった。

 ニルシさんの仲間達を助けに行けるのかは分からないけれど、出来たら助けに行きたいって私も思う。奴隷っていう制度は話には聞いた事があるけれど、正直その制度の事が嫌いだなと思う。誰が下で誰が上とか、そういう事を決める事が嫌だと思うのだ。




 この村ではそういう制度を使う事なく突き進んでいきたいというのは、私だけじゃなくて皆の願いでもある。




 そうやって考え込んでいた時に、私の耳に入ってきたのはウェタニさんが産気づいたという事だった。

 私は慌てて、ウェタニさんのいる所へと向かった。ウェタニさんの家は、エルフの人達が従来住んでいた木の上に建つ家だけれども、妊婦さんで木の上に住むのは何か大変な事になるかもしれない。というのもあって、妊娠が発覚してからというもの、ウェタニさんは薬師達が設立した治癒院と呼ばれる建物に滞在していた。



 産気づいているウェタニさんは治癒院の中で頑張っているので、私は治癒院の外で落ち着かない様子で回りの人に話しかけてしまう。治癒院の周りには私だけではなくて、村の多くの人達が集まっていた。

 子供が生まれる、というのは村にとって初めての経験であった。



 それもあって、私達の皆が緊張と興奮を抱えていた。子供を産む、という経験を私はまだ子供だしした事がない。生まれ育った村でも妊婦さんはいたけれど、私は近づけなかった。だから、こうして出産をしている人を間近で見るのも初めてだ。


 でも、出産が命がけというのは知識として聞いた事がある。



 新しい命を生む、というのはそれだけ大変な出来事なのだ。だから、出産というのは新しい命が生まれる嬉しい事だけれども、もしかしたら仲間を失ってしまうという恐ろしい事でもあるのだ。

 それを考えると、不安もどんどん湧き出てくる。私はウェタニさんの事も大切だ。だから、ウェタニさんが無事に、元気な赤ちゃんを産む事を、私は祈った。




「子供かぁ」

「心配ですね」

「無事に生まれてくれるんだろうか」

「俺、弟ほしかったんだよな。男の子だといいなぁ」



 私の周りで皆もそれぞれ、落ち着かない様子で声を上げている。



 私にとっては、性別はどちらでもいいと思う。男の子でも女の子でも、どちらでも嬉しいと思う。この村の中で、新しい命が生まれるというだけでも嬉しくて仕方がないから。



 男の子だったら、弟のように。女の子だったら、妹のように。ただ、可愛がって、大切にしていきたいと思う。私には弟も妹もいないから、生まれたら可愛がりたい。

 どんな子供が生まれるのだろうか。元気で生まれてくれたらそれだけで嬉しいな。

 ドキドキしながら、やっぱり私は落ち着けない。皆落ち着けなくて、心配だから、こうして集まっている。




「生まれたよ!」



 そして、ハラハラしている中でようやくその声が聞けた。生まれた、というゼシヒさんの言葉。でも皆で押し掛けてしまっても、迷惑だろうからゼシヒさん達薬師の人達の許可をもらってから順番に赤ちゃんとウェタニさんを見に行く事になった。



 私の番が来て、中に入る。



 ウェタニさんは疲れた様子で、ベッドに横になっている。その脇には小さなベッドが置かれている。このベッドもウェタニさんが子供を身ごもったという事が発覚してから、村の皆で分担して作ったものの一つだ。赤ちゃんのための衣服とかもこの村にはなかったから、村の皆で作ったんだ。私も赤ちゃんのための物を作るのを手伝った。



 ベッドに眠っている赤ちゃんは、可愛かった。小さいけれど、少しだけ耳が尖っているのはエルフの特徴だ。

 赤ちゃんって、こんなに小さいのだなと不思議な気持ちになった。こんなに小さな赤ちゃんが、いずれ大きくなっていくのだなって思うと、命って不思議だなってそうも思う。




「男の子? 女の子?」



 正直、赤ちゃんの性別が見ていても分からなかったので聞いたら男の子だと教えてくれた。男の子のエルフの赤ちゃん。

 赤ちゃんの彼の傍には、ウェタニさんの精霊が嬉しそうに存在している。精霊もウェタニさんの子供が生まれるのを、心待ちにしていたのだ。

 この子ともいつか、精霊が契約を結ぶのだろうか。



「赤ちゃん、可愛い。名前は決まってるの?」



 そう問いかけたら、まだ決まってないという話だったので後から決まってから教えてもらう事になった。そうしているうちに、私の番が終わったので一旦その場を後にした。また、落ち着いたら赤ちゃんを見に来よう。



 ―――少女と、新しい命の誕生

 (神子の少女の村で新しい命が誕生した。それは村全体にとって、喜ばしい事だった)





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