女史、迷子中
私、ランドーノ・ストッファーは現在困っていた。もしかしたら神子かもしれない、という思いがあるためアリス様の妹様を探して歩いている。森に入ったという目撃情報が入ったため、森に入ったはいいものの……、この森の魔物はそれなりに強力である。
魔物避けをいくつか持っているため事なきを得ているが、こんな森の中に齢七歳の子供が入って、それでいて無事でいるということがあるのだろうか。そんな思いさえ湧いてくる。しかし、もし、妹様が神子だとするのならば、森に入ったからといって亡くなっていることはないと思いたい。これで、神子かもしれない妹様が亡くなっているなんていう最悪の可能性は考えたくもない。
もし、妹様が神子であるというのならば、おそばに置いていただけるように交渉したい。そして神子という存在が実際にはどういうものなのかということを学びたい。文献の中では、神子がどういう存在であるか残されているものもあるが、実際に神子を見て、考察してみれば違ったものが見えてくると思うのだ。
まぁ、妹様が神子であった場合だけれど。アリス様が本当に神子であるというのならば、それはそれで神子の近くで神子について学ぶということは諦めなければならない。でも……なんとなく、神子は妹様なのではないかと思う。
ところで、何で私が妹様のことを名前で呼ばないかというと、名前を知らないからである。私に妹様のことを教えてくれた子供も、妹様のことを名前で言わなかった。というより、知らないように見えた。妹様は、もてはやされていたアリス様と正反対の扱いを受けていたことは聞いた。疎まれていたのだと。面倒な仕事を押し付けられていた面もあったらしい。それでいて名前も呼ばれることも、ほとんどなかったのだと……。だからあの子供は、妹様の名前を知らなかったらしい。小さな村だというのに。
ただ、妹様が神子かもしれないと思ったのは、誰かが妹様に危害を加えようとしたときに不自然にこけたりして危害を加えられないといった話があったらしい。それは、神子であるが故ではないか、とそんな風に思ったのだ。
尤も神子がどういう存在であるか伝わっているのは、都会だけで、小さな村では神子がどのような存在であるかなど伝わっておらず、そういう不自然に守られているといった部分も妹様が不気味だといわれていた理由らしい。それにしても、子を簡単に捨てる親というものには気分が悪くなる。
アリス様と妹様の両親は、今はアリス様と一緒にアガッタにいる。私は数度しか顔を合わせたことはないが、アリス様の家庭教師として大神殿にいた時に両親が何をしていたかは聞いていた。豪遊していたという話だった。神子様を生んだ相手だから願いは叶えなければという考えの元、それは許容されていたようだが、娘一人を捨てて豪遊するなんてどういう親なんだと思ってならない。
それにしても、妹様はどこに行ったのだろうか。
森の中をさまよいながらも私は思う。子供の足ならば、そんなに遠くには行っていないと思っていたのだが、妹様が居た痕跡さえも見つからない。もしかしたら、自分の足で移動しなかったのだろうか。酷い話だが、もし亡くなっているのならば、亡くなっている痕跡が残っているはずで、そういうのもないということは、やはり生きてはいるのだろうと推測することは出来る。
しかし……妹様は何処に行ったのだろうか。
アリス様の妹様。
アリス様は本当に平民の村人の家に生まれたのかと疑いたくなるような、王侯貴族のような見目……とても美しく、この世のものと思えないような整った顔立ちをしている少女だった。将来は絶世の美女になることは間違いないと断言できるほどの美しい少女だった。
その妹様。
あの村の子供が、妹様とアリス様は似ていなかったと言っていたから、アリス様のように美しいわけではなかったのかもしれない。
妹様がどんな外見をしているかもわからない。手がかりはない。だけど、私は妹様に会いたい。
どのような方なのだろうか。
まだ会った事もないのに、少しだけ楽しみになってきた。まず、会えるかも本当に分からないけれど、会えると信じたい。私は会いたい。会いたいから、頑張って、会えるように努力する。正直、その前に自分が死んでしまうのではないかという不安もあるけれど、それでも私は妹様に会いたいのだ。
「本当に……どこに行ったのかしら」
真っ暗な空の下、無数に輝く星々の下で、私はつぶやく。火を焚いて暖を取る。夜の森は、獣の鳴き声が響いて、少しびくりとする。魔物避けを持っているとはいえ、一人で此処にいるのは不安になる。
妹様も、まだ子供なのにこの森の中を歩いたのかと思うと、私も頑張ろうと思う。けど、やっぱり不安は大きい。
食べているものは持ち込んだ非常食や、森でとれる木の実やキノコといったものを使った簡単な調理といっていいかもわからないような過程を終えたものだけだ。
妹様を探してうろうろしているが、正直現在位置さえ把握できていない。どちらから来たかなどはわかっているが、結構森の奥深くまで来てしまった。
私は迷子というものになっているのかもしれない、という気持ちは増してきているが、此処まで来て妹様に会わずに引き返すというわけにもいかない。私は妹様に会いたい。そんな気持ちで私は明日も頑張ろうと、気合いを入れたのであった。
―――女史、迷子中
(多分、神子な少女を追いかけるため女性は必死である)




