少女と、精霊樹の復活 1
村の真ん中に植えられた精霊樹。
エルフの人達のあがめる精霊達の命の灯が宿る場所。
私はこの村に精霊樹の宿り木を植えてから、毎日、魔力を込め続けていた。その成果もあって、精霊樹の背は私よりもずっと高くなっていて、微かに光を発している。
精霊樹は回復すれば回復するほど、とても神秘的なオーラを放っている。精霊樹の傍は、心地よい魔力が巡っていて、居心地が良い。
村の中心に位置している精霊樹は、この村のシンボルのようなものだ。
フィトちゃん達、民族の人達やビラーさん達、翼を持つ人達には精霊樹の事をきちんと説明はしていない。特別な樹であるとは理解しているようだが、この樹の中で精霊達が休んでいるなんて思ってもいないだろう。
エルフ達は精霊達が復活する日を夢見ている。
――毎日、精霊樹や祭壇でお祈りを欠かさないのは、精霊達への確かな信仰があるからだろう。
私がエルフの人達と出会った時、あの植物の魔物の行いから精霊樹はすっかり弱り切っていた。その精霊樹としての命を失ってしまいかねないほどに。その精霊樹がこうして力を取り戻しているのを実感すると、私は嬉しい。
「通常ならこんな短期間でこんな風に成長する事はないのだけれど、レルンダの魔力と願いの影響かしらね」
「私の魔力と、影響?」
「ええ。レルンダの魔力は精霊達と相性が良い。それに加えて、レルンダは精霊樹の回復を心から祈ってくれているでしょう? 土地の魔力だけではなく、レルンダの魔力と願いがあるからこそ、精霊樹はこの短期間でこれだけ成長が出来ていると思うの」
フレネは私の隣でそんな事を言いながら、にこにこと笑っている。
精霊樹に宿っている精霊達は、まだ目を覚まさない。フレネはこの村で唯一、起きている精霊。だから寂しいだろう。そう思ったら、気づいたら私はフレネの手を握っていた。
「どうしたの、レルンダ」
「フレネ、寂しいかなと思って。精霊達、皆、眠ったままだから」
「ふふ……心配してくれているの? 大丈夫。レルンダ達が居るから私は寂しくないから」
私の言葉にフレネは笑って、私の手を握り返してくれた。
自分と同じ存在が一人しか存在しないというのは、寂しい事だと思ったから。そう考えると、神子もこの世界では一人しかいないだろうから、私も一人と言えるのかもしれない。でも不思議と寂しさは感じたことはない。独りぼっちだと思わないで済むのは、この村にいる皆が居るからだ。
フレネも私と同じ、そういう気持ちなのかもしれないと思うとフレネが言っている事も納得できた。
「フレネ、早く精霊樹も元気になったらいいね」
「そうね。元気になってほしい」
精霊樹が元気になって、精霊達がこの村で自由に飛び回る。その様子を想像するだけで、何だかわくわくしてくる。
精霊樹と精霊達の復活は、エルフの人達にとっての悲願であると言える。私が精霊樹と精霊達に復活してほしい、という気持ち以上にシレーバさん達は精霊樹と精霊達の復活を夢見ているだろう。そう考えると、益々精霊樹の回復が待ち遠しかった。
フレネと会話を交わしていたら、精霊樹から溢れ出ている魔力が心地よくて、何だか眠くなってきた。
フレネに「お昼寝しよう」と言ったら、頷いてくれたので精霊樹に寄りかかりながら眠りにつく。精霊であるフレネは眠るという行為をする必要はないけれども、やろうと思えばすることが出来る。だからたまにお昼寝を一緒にしている。
「レルンダ」
「まぁ……これは」
声が聞こえる。
私を呼ぶ声。それだけではなく、何か驚いたような声も聞こえてくる。
あたりが騒めいているのがわかる。どうしたのだろうか。何かあったのだろうか。
そう思いながら、私は瞳を開ける。
瞳を開ければ、驚くような光景が広がっていた。
あたり一面に光があった。——沢山の光。その一つ一つが形を持っている。エルフの人達が感涙している。嬉しそうに笑みを溢している。その近くには――光があった。……精霊だ。エルフの人達の傍にいるのは、フレネと同じ精霊だ。
「……これ、は」
疑問の声が口から洩れる。起きたばかりで、何だか頭が働いていない。
「レルンダ、後ろ」
「後ろ?」
いつの間にか起きていたフレネに言われて、後ろを振り返れば――精霊樹がある。でも眠る前とは違う。もっともっと、大きな煌めきを発している精霊樹があった。そこで休んでいた精霊達の姿は、ほとんどない。
そこまで把握した時、私は理解した。
「精霊樹が、復活した?」
昼寝する前に早く復活してほしいと話していた。でも、何時復活するかは分からなかった。こんなに早く復活するなんて、嬉しい誤算としか言いようがない。
精霊樹が復活した事を理解して、私の目は完全に覚めるのであった。
―――少女と、精霊樹の復活 1
(神子な少女は、毎日精霊樹に魔力を込めていた。その結果、精霊樹が復活を果たす)