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少女と、絵本 1

「レルンダ、紙をある程度作れるようになりました。それでレルンダに相談があるのですが……」

「相談……?」




 私の元にランさんが目を輝かせてやってきたのは、昼ご飯を食べようと考えていた頃だった。



 ランさんは何か思いついたのか、興奮した様子だ。ランさんは、好きな事に対しては本当に意気揚々としている。ランさんは出会った頃から変わらず、やりたいことをやってキラキラしている。

 ランさんは出会った時から姿は変わってない。大人なんだから当たり前だけど、私とランさんの背は前より近づいていて、不思議な気分になる。私もこうして大人になっていくんだなって頭では分かっているけれど、想像が出来ない。


 ちなみに、今は珍しくイルームさんは傍には居ない。



「流石にずっと追いかけるのはストーカーでしかない」とシェハンさんが説得して、今は他の活動をしている。……私がお祈りをしているレルンダの祭壇なんて呼ばれている場所をもっと大きな建物にしたいとか言っていた。でもそれは断った。というか、お祈りする場所がそんな風にされたら落ち着かないもの。

 そう言ったら別に教会みたいなところを作るっていって張り切っているらしい。……どうなるんだろう。まぁ、変なことをしようとしたらドングさん達がちゃんと止めてくれるだろうけれども。




「ええ。私は絵本を作りたいのです」

「絵本?」

「ええ。子供向けの簡単な物語を広めたいと思っています。それでですね、まずは第一弾として神子——つまり貴方に対する絵本を作りたいと思うのです」

「私の?」

「ええ。そうですわ。自分の事が本になるというのは、色々と葛藤もあるかもしれませんけれど——、私は絵本にすることでこれからのためにもなると思います」

「これからの、ため?」

「この村は、どんどん人が増えてきています。この村が街や、国と呼ばれる日も来るでしょう。私はそういう未来を期待しています。その場合、神子についての絵本が存在していれば動きやすいと思います。貴方は神子として生きる事を決めた。神子であることを隠さない事を決めた。だからこそ——レルンダの事を認知させるものは必要です。レルンダには難しい話かもしれませんが、一種の情報操作ですね」




 ランさんはそんな事を言う。ランさんは私にとって難しい話だったとしても、私が当事者である場合はちゃんと私に伝えてくれる。私に隠して、私の知らないうちに事が進んでいるという事をしない。ちゃんと私の気持ちを考えて、言葉を紡いでくれる。



 いつか、この場所がもっと大きくなった時のためにそれはあった方がいいのだと。



 ランさんは私についてまとめたものを本として製本はしているけれど、ただ私についての事実をまとめているだけのものはあまり読もうとする人も少ないみたいだ。それもあって絵本という形で作ろうと思っているのかもしれない。




「絵本というものは児童向けという事もあって読みやすいですから、文章を読むのが苦手な人達だって読む事が出来ます。人が増えてきて文字が読めないものも結構いますから、そうなると読み聞かせがしやすいものと考えるとやはり絵本といったものがいいかなと思ったのです。今はまだこれだけの人数だから問題はないかもしれませんが、これから人が増えた場合、レルンダを害そうという方が出てこないとは限りません。神子とは特別な存在ですが、それゆえに狙われる可能性も強いですから。だからこその絵本です。ここで暮らす全ての人達が神子であるレルンダを大切にしなければならないと実感できるようなそういうものを作りたいのです。それを作ったとしてもレルンダを害そうとするものももしかしたらいるかもしれませんが……それでもレルンダを大切にしようと思うきっかけである絵本か何かがあった方がレルンダに手を出す者は少なくなると思います」



 ランさんは私の事を心配している。心配しているからこそ、こんな風に言っている。その事が分かるから、心の中にじんわりとした温かいものが広がっていく。



「ランは本当にレルンダの事を大切に思っているのね。レルンダ、私はランの政策はとてもいいと思うわ。私もレルンダの事を守るけれど、それだけじゃ足りなくなるかもしれないもの」



 ランさんの言葉をずっと黙って聞いていたフレネは、私の方を向いていう。姿を現そうとしていないので、ランさんはフレネの姿も声も感知していない。



「つきまして、そのために絵本に描かれる内容というのを相談したいと思うのですが、よろしいですか? レルンダをモデルにした良いものを私は作りたいのです。そしていつか、ここに住むすべての人達に愛される、誰もが読んだ事がある物語にしてみせたい……っ!」



 ランさんはやる気に満ち溢れていた。自分の事をモデルに物語が作られる、そしてそれが広まるというのは恥ずかしいと思う。でも、これはランさんが私の事を考えて提案してくれたことだし、私は神子として生きていく事を決めたのだから——、そう思ってランさんの提案に頷いた。



 ――少女と、絵本 1

 (神子な少女は、女史の提案に頷く。そして神子に関する絵本の制作のための話がなされる)



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