少女と、神官との朝
「レルンダ様、おはようございます!」
「……おはよう、イルームさん。毎回、朝一番に私の元へ来なくていいんだよ?」
自由を手にしたイルームさんは、毎朝、私の元まで足を運んでくる。朝一番に私の元へやってきて、私に対して挨拶をする。私は毎回、律儀に挨拶をしにくるイルームさんに何度もそんな風にしなくてはいいと言ってはいるのだけれども……。
「いえ、レルンダ様という神子様がいらっしゃるのに、真っ先に挨拶をしないなどといった神への冒涜とも言える行動など私はしたくありません!」
……私に真っ先に挨拶をしない事が神への冒涜に繋がるなどというイルームさんを私はやっぱり理解出来ない。私は自分が神子だとしても、特別な部分があろうとも、それでもそれは私の一部分でしかなくて——、私はまだただの子供でしかない。だからこそ、こういうイルームさんの態度は戸惑いを覚えるし、考え方を理解出来ないからこそ恐ろしいという気持ちさえわいている。だからこそ、私はイルームさんがどんな行動を起こすか分からないと怖かったし、だからこそ向き合う事を避けていた。
こうして、イルームさんと真正面から向き合ってみても、私はやっぱりイルームさんの考え方とか、信仰心を正しく理解する事は出来ない。でも理解出来なくても向き合って、イルームさんという存在を真正面から見る事は出来るのだ。
「……そう。なら、イルームさんがやりたいようにすればいい」
「はい。そうさせていただきます!!」
「レルンダ……そんなことを言ったらイルームは本当に好き勝手するぞ? 嫌だったら嫌だときちんというように」
私の言葉にイルームさんが元気よく答える。その会話を聞いていたシェハンさんが、私の方を心配するように見ている。
私に対して、只の子供に接するような態度で接してくれるシェハンさんとの方が私は付き合いやすい。もちろん、イルームさんの事が嫌いとかそういうわけではないけれども、それでもあからさまに私に対して「神子様、神子様」と信仰心を向けられると正直戸惑いばかりを感じるのだ。
朝、イルームさんはいつも私の元へやってくる。その後ろにシェハンさんはどんなにはやくてもいつもついてくる。シェハンさんは、あまり人と親しくしないといった雰囲気の人だけど、イルームさんのいる所には常にいるイメージだ。
そういえばシェハンさんが時々鍛錬をしているところを見かけるけれど、凄かった。なんだろう、ただ剣をふるっているだけではないのだ。魔法剣士、そう呼ばれる存在は珍しいらしい。剣だけではなく、魔法も扱える希少な存在。剣に魔力を込めて、通常よりも威力を出せるという。とてもかっこいいと、憧れてしまう。
私が朝から井戸から水をくむ。
井戸は皆で頑張って作ったものだ。
井戸から水をくんで、それで顔を洗ったりする。イルームさんもついてくる。そんなイルームさんの後ろをシェハンさんがついてくる。イルームさんは私が何をしていてもキラキラした目で私を見据えている。
私がどんなことをしたとしても、「流石神子様」という目で見てきそうな予感さえもする。イルームさんみたいな人ばかりが私の側に居たのならば、私は我儘な存在になったかもしれないと考えた時、はっとした。姉の事を思い浮かべたからだ。
最近、全然思い浮かべる事のなかった私の双子の姉。姉は、常に周りに肯定されていた。私は近づく事を許されなかったから姉の事を良く知らない。姉とかかわりは少なかった。だけれど、姉が肯定され、周りに愛されていた事を知っている。姉を中心に回っていた。だからこそ、姉はあれだけ自信にあふれていたのだろうかって思ったから。――姉は、神子として引き取られた。そしてランさんが追放されたりしたのだ。姉は、どうなっているだろうか。
「神子様、どうなさいましたか?」
「……なんでもない。ちょっと考え事。気にしないで」
イルームさんに聞かれて、私はただそう答える。
気を抜いて色々話してしまったら、私の事を崇拝しているイルームさんがどんなふうに考えて、どんな風に行動するのか分からないから。
朝から行動をする私の後ろを大抵ついてくるイルームさんは、必要最低限私に話しかけては来ない。イルームさんの後ろをついてきているシェハンさんもしゃべらない。結構無言なことが多い。イルームさんは私と交流がしたいとか、そういうわけではなくて私の側に仕えて私の事を見て居たいらしい……。もちろん、私が拒否をすればイルームさんは他の事をしているけれど……。
流石にずっとついてこられても困るのでそれを言ったら、朝以外は此処までついてこなくはなった。でも起きてすぐの朝は、私の側に仕えたいらしい。そういうわけで朝は大抵イルームさんとシェハンさんと一緒だ。
うん、本当に色々と理解が出来ないと改めて私は思ってならなかった。
でも邪魔になるわけでもないし、イルームさんとシェハンさんとの朝を最近は過ごしている。まぁ、グリフォン達やシーフォや他の人達も結構一緒に居るけれど。
―――少女と、神官との朝
(神子の少女の朝には、最近神官の姿が見られる。ついでにその後ろには魔法剣士もいる)