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商人、疲弊しながら進む。

「はぁ……」




 息を吐いて、僕は地面に座り込む。

 森の中へと足を踏み入れてから、僕は気が休まらない日々を過ごしている。森の中には、魔物が居る。そして持ち運んできた食べ物も少なからず減っていく。森の中で食べ物を調達もしているけれども、それでもこうして森の中で生活をするための物を集めるのは大変だ。



 僕はランに会いたいというその想いから森の中へと足を踏み入れたけれど、現状ランへの手がかりは全然ない。だけど、僕は生きている事を信じてる。ランに会いたいというただそれだけの思いでここにいる僕だけど、思ったよりもこの道中は危険だった。

 ……一人、僕らについていく事を選んだ獣人が亡くなってしまった、誰も死ぬことなく、神子の元へたどり着ければいいという甘い感情を僕は抱いていた。期待をしていた。だけど、やっぱりそれは無理だったのだ。



 神子に会えないままに、僕たち全員が死んでしまうかもしれない。その可能性を思うと、こうして森に足を踏み入れたのは間違いだったのではないかという思いさえもわいた。でもランに会いたい、その想いがあるからこそ僕はまだ踏ん張れていた。



 共に森の中に足を踏み入れた者達の中にも、僕のような気持ちになっている者は何人かいる。一人、獣人が亡くなってしまったのもあって、それも仕方がないだろう。特にまだ子供の獣人は人が亡くなってしまった事にショックを受けていた。



 魔物が多く住まい、毎日不安だらけの道中だ。

 森の奥深くまで足を踏み入れても、まだ神子とランが何処に向かったのか分からない。途中でもぬけの殻になっている建物を見つけたりもした。もう誰も住んでる痕跡はなかったけれども、誰か人が住んでいた痕跡のある木の上にある家。

 僕はそれに希望を抱いた。

 此処に住んでいた人々が何処に向かったのかは分からないけれども、その先に誰かいるのだという希望を持つことが出来た。



「サッダ様、大丈夫ですか?」




 僕はこの中で一番、体力がない。獣人達と、鍛えられた騎士達とではそれはもう雲泥の差だ。一緒に来ている商会の者達だって僕より体力がある。そのことを実感して情けない気持ちになる。



 足も痛い。

 食事は王国に居た頃よりも、断然貧しいものを食べている。

 魔物への恐怖で寝つけない。

 僕の心は徐々に疲弊していた。



 どちらにいけば、ランに会えるだろうか。どうしたらランの顔を見る事が出来るだろうか。そればかりを僕は考えている。

 疲れ切った心で、ランの事ばかりを考えている。

 三年間も会っていない友人。僕の好きな相手。神子を追いかけると決めて、さっさととびだってしまった友人。生きている事を信じている。生きて、また会える事を信じている。信じなければやっていけない。





「……ああ、大丈夫です。それより、他の者達は大丈夫ですか?」

「今の所は大丈夫です。ただ、この状況がいつまでも続けば、内輪から崩壊していく恐れもあります」

「……分かっている」




 分かっている。このままの状況でいつまでも目的地にたどり着かないのならば——、このまま内側から崩壊していく恐れもある。今の所、食事はなんとか用意は出来ているし、幸いにもと言っていいのか一人しか亡くなっていない状況だけれども——それでも、限界は近づいてくる。今の状況は良いと言えるものなどでは決してなくて、その状況からの先が見えないのならば……駄目になるだろう。



 この先——どうなるだろうか。それは分からない。

 未来を予知する事など、僕には出来ない。僕に出来る事は、内輪でのもめごとを少しでも減らす事。そして神子への手がかりを手探りでも、運でもいいから見つけること。僕達はその神子の元へたどり着く以外には、状況が好転する事はありえないのだ。



 それが分かるからこそ、僕は神子の元へ急がなければならないのだ。

 この進む先に、神子が存在しているのならば僕の勝ちだ。そうなれば、僕はその先、どうにでも出来る。



 ヴェネ商会としても、神子の元へたどり着ければ上手くいくだろう。

 そう考えると、本当に僕達の今の命運は神子にかかっている。神子に会えるか会えないか。それが全てだ。神子に会えれば、僕は勝者となれる。でも会えなければ敗者として命を恐らく失う。



「神子に……絶対に会いましょう。そうしなければ、僕達は死ぬだけなのだから」




 疲弊した心は、もうあきらめてしまった方が楽なのではないかという囁きを発している。けれども、僕は先が見えなかったとしても、先に進みたい。神子に会うという希望をもって進む。諦めたらそこで終わりで、ランにも会えない。僕はランに会わずに死にたくはないから。

 だから、言葉を口にして、絶対に神子に会うと決意する。



 ――商人、疲弊しながら進む。

 (商人は疲弊している。だけれども、会いたい人が居るからこそ希望をなくさずに進もうとしていた)



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