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少女と、信仰 3

 イルームさんは、涙を流している。大粒の涙を流して、私の事を見ている。でも、悲しいとかそういう感情ではない事は分かる。何だか、感動している? 意味が分からない。私には理解出来ないものだった。

 イルームさんは私を見て涙を流してる。私は、そんなイルームさんになんと反応を示していいのかさっぱり分からなかった。



 困って、ランさんとドングさんの方を見る。

 二人も少しだけ何とも言えない顔をしていた。




「レルンダ様……。私は、レルンダ様が私にお言葉をくださることが嬉しいです。レルンダ様が……私の事で心を砕いて、私の事をきちんと……きちんと考えてくださっている事が嬉しいです。レルンダ様は……本当に、とても素晴らしい神子様です」



 そしてイルームさんは、力強い目で私の事を見ている。



 私はイルームさんを信頼していないと口にした。信仰という気持ちは怖いと言った。イルームさんが何かを起こすかもしれないって言った。正直、イルームさんはそういう言葉に悲しい気持ちになるのではないかって私は思ってた。イルームさんの気分を害してしまうのではないかと考えていた。だけど、イルームさんは……全然、気にした様子がないんだ。



 寧ろ、私から受け取った言葉は全て贈り物だと思っているようなそんな雰囲気だった。



 私が神子、という存在だからイルームさんは私の言葉を全て受け取っている。私が神子ではなかったら——、イルームさんは私の言葉をこんな風には受け取らなかっただろう。

 でもそもそもの話、多分、私は神子ではなければ生まれ育った村で生きていけなかったかもしれない。そもそもそんなでもとか、だってとかは考えても仕方がない話だ。私と、神子って存在は切り離せないものなのだから。





「レルンダ様——、恐れ多くも名を呼ばせていただくだけで私は光栄の極みを感じております。レルンダ様は神子様という立場と力とちゃんと向き合っておられる。私はそのことが嬉しいのです。神子様と神官の関係として、ただ神子の言う言葉に頷いて、その望むままに行動をするだけではなく、きちんと神子様と向き合って、そして導いたりする関係だと考えております。私は神子様の事を、神子様が言うように信仰にも似た気持ちを抱いています。私にとって、レルンダ様は神に等しい存在なのですから」



 イルームさんの言葉は、何処までもまっすぐだ。

 真っ直ぐな目、真っ直ぐな言葉。一切、偽りのない言葉に、私の心も動かされる。





「レルンダ様、私は確かにレルンダ様に対して大きな思いを抱えています。私はレルンダ様に頼まれればなるべく願いを叶えたいと願っています。だけれども、レルンダ様が望まない事をやりたいとは思っていません。レルンダ様の心に憂いを灯すぐらいならば、この命を神に捧げたく思うほどにそのような事はしたくないと思っております」



 ええっと、要するに私にとって望ましくない事をして私が悲しむぐらいなら、自分から死を選びたいって事? 重い。重すぎるよ。しかも、絶対にそんなの嫌だよ。私の事を思って死のうとするかもしれないなんて……行動に気を付けないと、イルームさんが死んじゃうかもしれないってことなら自殺するのは駄目だって言わないと。

 そう思いながらイルームさんの話を引き続き聞く。




「ですので、レルンダ様が私の行動を確認してくださるというのは私にとっても喜ばしい事です。私はレルンダ様が望まない事はしたくない。そしてしないつもりですが、私も人間です。私が正しいと思った事でもレルンダ様にとって望ましくない事である事もあります。私はレルンダ様のお心に寄り添い、レルンダ様の事を誰よりも理解したいと望んでおりますが、私とレルンダ様は別の人間なのですから。私は何か行動を起こす場合は、レルンダ様の望むようにきちんとレルンダ様に報告をしようと思います。そして、私の行いでレルンダ様にとって不愉快になるような行動があれば言ってください。なるべくそういう行為を行わないように私はしたいですが、それが本当に出来ると言えるほどの自信は私にはありません。どうぞ、幾らでも私の事を監視して、私の行動を見ていてくださいませ。私はレルンダ様の与えてくれるものは何でも嬉しいのです。レルンダ様が私の事を信頼していなくても、私と向き合ってくださった事が本当に嬉しいのです」

「……うん。あと、イルームさん、自殺するのだけはなし。私のためにも、ちゃんと生きて」

「……レルンダ様っ。分かりました。このイルーム、レルンダ様の願いを受け止めます」




 一先ず、自殺するのはしないようにしてくれるらしくてほっとした。それにしても、イルームさんは本当に私の事を大切にしてくれているのだ。その重すぎる気持ちには正直驚いてしまうけれども、それでもランさんたちとは違った想いで私の事を大切にしてくれているのは間違いない。



 私が気持ちを伝えて、イルームさんが受け止めて、そしてイルームさんは家の外に出る事が出来るようになった。イルームさんと一緒に居るシェハンさんにも同様に監視がつけられる事になっているが、彼女はイルームさんと一緒に居れるなら何も問題がないようだった。



 ―――少女と、信仰 3

 (神子の少女は神官と向き合い、神官は神子の言葉を受け取った)



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