少女と、信仰 2
信仰——それは、あるものを信じること。そしてその教えをよりどころとする事。私の事を信じて、私の事を——神子という存在の事を信仰している。
それがイルームさん。
神官として神の事を信仰し、そして神子である私の事を信仰している。
人間である私を信仰する、そんなイルームさんの事を私は正直言うと理解が出来ない。私は自分が神子だと自覚はしても、自分は人間だとちゃんと知っている。
私は神子である以前に、ただの人間だ。
だからこそ、自分を信仰する気持ちというのは理解は出来ない。
頭ではなんとなく分かるけれど、それでもなんとも不思議な気分になる。でも信仰という気持ちを向けている人が確かにいる。
その事実を、きちんと受け止めた上でイルームさんと向き合う。
「レルンダ様!! 私に会いにきてくださるとは光栄です!!」
イルームさんは、私が訪れるとそれはもう嬉しそうな声をあげた。
顔を破顔させて、キラキラした目で私を見ている。
私がただこうして訪れただけで、イルームさんにとっては天にも昇るような気持ちである……らしいと、ランさんは推測していた。
私は私に対して加護を与えてくれている神様に対して祈りをするけれど、それは信仰というほどの強い感情とは違う気がする。
やっぱり、信仰って気持ちは難しい。
「うん……。あのね、イルームさん。私はイルームさんを家の外に出そうかと思っているの」
「それは……、私を信頼してくださったということでしょうか?」
「ええっと、違うの」
私がそういうと、イルームさんはしょんぼりとした顔をした。そんな顔をされるとすぐに慰めたくなるけれど、その気持ちを何とか振り払う。ランさんとドングさんも傍に居る。私とイルームさんの会話に必要以上に口を出す気はないようだった。
「私は……イルームさんの事を好ましいとは思ってる。嫌いじゃない」
「私もです!!」
「ええっと、イルーム。ちょっと黙って話を聞いた方がいいと思う」
私の言葉に過剰反応をするイルームさんに、シェハンさんが呆れたように言った。その言葉にイルームさんははっとなって、「すみません。レルンダ様!」と姿勢を正しくした。もっと、楽にして聞いてくれていいのだけど……と思いながら私は続ける。
「ただ、私は……私を信仰? というか、ええっと、イルームさんのように思っている人に慣れてない。私は……イルームさんの事、嫌いじゃない。でもイルームさんが、どんな行動を起こすのか不安だった」
私は私の気持ちをちゃんと伝える。そしてイルームさんと、ちゃんと向き合う。そう決めたからこそ、声に出す。
「……信仰って、怖いものだと思う。私を大切に思ってくれていること、嬉しい。でもその大切な気持ちが信仰みたいなものだと、怖いなって。私のためにって……イルームさんが何を起こすんだろうって。私が望まない事をされた時……私、止める自信なかった。だから、イルームさんの事、外に出さないのを選んだ」
私は向き合う事を恐れてた。それが出来ると思わなかった。結局逃げていただけの話だった。信仰という、思いを向けられている私が……フィトちゃんみたいにしっかりと出来ればイルームさん達をここに閉じ込めていく事をしなくてもどうにか出来たはずなのだ。もっと折り合いをつけれれば……。
「でも、私は——イルームさん達を村に置くこと決めたから、外に出そうと思った。イルームさんが、信仰って気持ちを理由に何か起こすなら……私はそれを受け止めて、嫌だったら止める」
私はそんな決意をした。決意をしたからちゃんとイルームさんに言った。
「私がイルームさん達を、村に受け入れるの結果として決めた。私に特別な感情を抱いているイルームさんを、此処に置くことを決めた。だから——ちゃんとイルームさんの起こすことへの責任は私が持つ」
それは私が決めたこと。イルームさんと向き合うために決めたこと。
「あのね。イルームさんを外に出す。でも、イルームさんを信頼してる事とは違う。私はイルームさんの行動、ちゃんと確認する。イルームさんが何かやらかしたら私も責任を取る。だから……何か行動したい時は、ちゃんと考えて欲しい。私がどう思うか。後、私が……どうなるか。貴方が起こした事、私も背負う。だから……ちゃんと考えて。外には出すけど、ちゃんと見張りはする。後、何かやらかすなら、全力で止めるから」
私は真っ直ぐにイルームさんの目を見て言った。
イルームさんは……ええっと、何故か感涙極まったような表情で、というより、もう泣いてしまいそうな雰囲気で私を見ていた。
―――少女と、信仰 2
(神子な少女は、自身を信仰する神官に言葉を告げる。一生懸命に、自分を信仰する者と向き合うための言葉を)