少女と、信仰 1
私はフレネとレイマーとの散歩から戻って、早速ランさんの元へと向かった。
「ランさん」
私がランさんに声をかけた時、ランさんはドングさんとシレーバさんと一緒に居た。三人の瞳がこちらを向いた。
「まぁ、レルンダ。どうしたの?」
ランさんは私に向かって優しい笑みを零している。
ランさんの優しい笑顔が私は好きだなと、ランさんの笑みを見る度に思ってならない。
「あのね……私、イルームさんと、ちゃんと向き合いたい」
私がそう告げれば、ランさんだけではなくてドングさんとシレーバさんも驚いた顔をする。私がこういう事を言い出すとは思ってなかったようだった。
「レルンダ。あの神官はレルンダを信仰しています。信仰心を理由にどんな行動を起こすのか分からない人間ですわ。だからこそ、条件を付けてこの村に留まらせる事を決めたでしょう?」
「うん。……でも、フィトちゃん達を見ていて私はちゃんと向き合いたいと、思ったの」
「フィト達を見て?」
「うん。……フィトちゃんは、きちんと民族の人達の事を動かしている。絶対に暴走、させないって言ってくれた」
フィトちゃんはきちんと向き合っている。私という、神子という存在に対して特別な感情を抱いている彼らを暴走させないようにきちんと向き合っている。でも、私は只、逃げているだけだ。
暴走するかもしれない、と問題から目を背けているだけだ。
「私は……逃げている。神子として生きていく事、決めたのに。この力を使う事、決めたのに。だから——ちゃんと、イルームさんが問題行動起こさないように私が頑張る」
「……レルンダ。最悪の場合は上手くいかなければ、彼らの命を奪わなければならないかもしれません」
「うん。大丈夫。ちゃんと、分かってる」
今、イルームさんとシェハンさんを家に閉じ込めて外に出さないようにしているのは、問題を起こす恐れがあるから。外に出さなければそもそも問題なんて最低限しか起こらない。でも、外に出してこの村の在り方を見せるという事は何かしらの問題が生じる可能性も高い。――もし、彼らがこの村にとって不利益になることを起こすというのならば命を奪わなければならないかもしれない。
私はちゃんと、その事実を分かっている。
理解した上で、踏み出したいと思った。
「……そうならないように、私は全力を尽くす。なったら……覚悟を決める」
神子である事を受け入れて、神子として、生きていく事を決めた。
今はまだ、イルームさんだけだけど、これから先、もっと多くの人たちが同じような事になる場合もある。ならば一人の事も上手く出来なければどうしようもない。
ランさんたちは私のためを思って、辛い思いをしないように向き合わない道を示してくれた。最悪の可能性を示してくれて、私が悲しい思いをしないようにって。このまま、イルームさんときちんと向き合わなければ、私はしばらく幸せかもしれない。でもそれがいつまで続くかも分からない。
今、この村は上手くいっているけれどもそれがいつまで続くのかも分からない。このまま向き合わずにいて、何か起こった時、向き合わなかった事実が最悪の形で姿を現す可能性だってある。
そんな風に感じるから。だから。
「……心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。ちゃんと、分かってる。私はちゃんと、向き合いたい。それで迷惑、かけちゃうかもしれない。それに、上手くいかない時は助けてほしい。でも……私は向き合いたい」
もしかしたらこの私の向き合いたいという選択肢は、皆に迷惑をかけてしまうかもしれない。上手くいかないかもしれない。私には信仰心というその思いがどんなふうにイルームさんの中に存在しているのかも分からないから。そして、上手くいかなければ助けてほしいとそんな甘えた言葉も口にしてしまった。
だけれども、向き合いたいと思った。
思わず口にしながら少しずつ声が小さくなってしまった。視線を下に落としてしまう。
止められるだろうか、そんな風に考えていたら大きな手が私の頭を撫でていた。視線をあげれば、ドングさんが私の頭を優しく撫でていてくれて、シレーバさんは仕方がないといった顔をしている。そしてランさんは、言葉をくれた。
「ならば、私は反対しません。レルンダがきちんと決断した事ならば、その行動を後押しします。それだけの決意を持っているのならば私はそれが上手くいくようにお手伝いをしましょう。上手くいかない時も、もちろん手伝いますわ。それにしても……」
ランさんは私を見て、笑って続ける。
「レルンダは、成長しましたね。私はレルンダの成長を側で感じられる事が嬉しいですわ」
優しく笑って、ランさんは私の成長を側で感じられる事が嬉しいという。ランさんの言葉に、ドングさんもシレーバさんも同じように穏やかにほほ笑んでいて、そんな視線に見つめられて思わず私は少しだけ恥ずかしくなった。
――少女と、信仰 1
(神子な少女は、女史たちに自分の決意を告げる)