少女、向き合いたい
火魔法の練習ももちろんしているけれども風魔法の練習も欠かさずしている。私にとって使い勝手の良い風魔法。風の精霊であるフレネとグリフォンのレイマーと一緒に空に私は浮いている。空に浮かぶ事は、前よりもずっと楽に出来るようになった。
慣れてきたのだと思う。
まだ、翼を持つ人たちほど自由に空を舞う事は出来ないけれども、それでも私は空を飛んでいる。
私は人間で、翼を持っていないけれど空で移動できるぐらいになっていた。
天気がいい日に、こうして空に飛び出せる事が私は嬉しいと思う。
青い空の下、自然の匂いを感じながらフレネとレイマーと一緒に空に滞在する。
元々、自然の中を散歩するのは好きだけど、地上の散歩と空の散歩ではまた違った楽しさがあるように思えた。とても気持ちが良い。
上から見ると、私が過ごしているこの場所の事がよく分かる。地上では見えない部分も見えて、新しい発見があったり楽しい。
「空の上、気持ちいいね」
「ぐるぐるぐる(空は良いものだ)」
「ええ、とても気持ち良い」
私の言葉に、レイマーもフレネも同意してくれている。
空を飛べる事があたりまえのグリフォンのレイマーと、風の精霊で自由に空を飛びまわるフレネ。
その二人と一緒に空の散歩が出来るようになった事が私は嬉しい。
以前では考えられなかった事が出来るようになった事に達成感を感じて仕方がない。もっともっと出来る事を増やしていきたい。そんな欲望がどんどんわいてくる。
「ごめんね、スピード出せなくて」
「ぐるぐるぐる(大丈夫)」
「大丈夫」
二人して同じ事を言う。
まだスピードが出せない私に合せて、ゆっくり飛んでくれているレイマーとフレネは優しいなと思う。優しい皆と一緒だから、頑張ろうという気がより一層溢れてくる。
「ぐるぐるぐる(そういえばレルンダ)」
「ん?」
「ぐるぐるぐるるるるる(あの神官の事は結局どうするんだ?)」
「イルームさんのこと?」
空中で止まって、レイマーを見る。レイマーは私の事をまっすぐに見ていた。
「ぐるぐるるるるるる(ずっとあのまま閉じ込めていくわけにもいかないだろう)」
「うん……」
神官のイルームさんと、魔法剣士のシェハンさんは家の中に基本的にいてもらっている。それはイルームさんがどのような行動を起こすのかというのが想像がつかなかったから。そして神の娘と呼ばれていたフィトちゃんと出会ったらどうなるのかという不安があったから。
結果的に現在、フィトちゃん達民族の人達とは上手く行っている。民族の人達は暴走する恐れもあるけれど、フィトちゃんが上手く説得してくれた。私の望まない行動を、私のためにと勝手に起こさないように。そんな風にフィトちゃんはしてくれている。
イルームさんと遭遇した時、ランさんは言った。私が命令すればイルームさんは何でもやってしまうかもしれないと。そして私が他意なく口にしてしまった望みでもイルームさんは叶えようとするかもしれないと。そういう恐れがあるからこそ、私達はイルームさんとシェハンさんの事を外に出さないようにしている。
でもそれって、結局私が向き合えていないだけなのだと思う。
フィトちゃんは民族の大勢の人達ときちんと向き合って、説得をしている。覚悟を持って、彼らと接した。だからこそ、上手くいっているのだと思う。
それに比べて、私は——恐れていて、向き合えてなどいないのだ。
フィトちゃんと民族の人達との一件から、私は改めてそういう事を考えた。
私はイルームさんを上手く動かせる自信はない。勝手に行動された時に止める自信がない。――そういってイルームさんを村に受け入れる事を決めながら逃げてしまっていたのだと思う。
このままイルームさんを隔離していて、問題が解決するわけでもない。そのことを考えれば考えるほど自覚した。
「……私は、神子として生きる。神子としての力を、何でも使ってでも皆を守る。そう決めた」
神子である、という事実を受け入れた。
神子としての力を、何でも使ってでも皆を守っていきたいと決めた。
だからこそ、このままでは駄目なのだ。
「……だから、ちゃんと向き合う。イルームさんと、話す。イルームさんが家の外に出ても、暴走しないように、ちゃんと私がする。それが出来たら、きっと大丈夫」
イルームさんは、私を”信仰”してる。だからこそ、暴走してしまう危険性はあるけれども、私がちゃんとすれば、きっとイルームさんは暴走なんてしないだろうから。
「ぐるぐるるるる(頑張れ)」
「頑張って。私達は、レルンダの味方」
私の宣言に、レイマーもフレネもそういってくれた。
それから、しばらくの間、レイマーとフレネと空を散歩した。
村に戻ったら、早速、イルームさんと向き合うために動いてみようとそう決意した。
―――少女、向き合いたい
(神子の少女は神の娘との一件から、神官と向き合いたいと決意した)
書籍の重版が決定しました。購入してくださった読者様、ありがとうございます。