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少女と、お墓

 私は今、村の中に作られているお墓の側に居る。



 此処にはアトスさん、ロマさん、おばば様のお墓がある。広場からそんなに離れていない場所に作っているのは、空へと旅立っていった皆が寂しくないようにだ。



 もう話す事も、笑いかけてもらう事も出来ない。

 その事は考えれば考えるほど、寂しくて悲しい気持ちになる。――だけど、前を向いて生きる。今はもういない大好きな人たちの事を心に留めて、皆が安心して見守っていけるように頑張る。



 お墓には皆がよく来る。それは亡くなった人たちの事を私同様に皆が大切にしていたから。――ガイアスも、よくここにきている。ガイアスはアトスさんの事を考えているのだろう。




 誰かが居なくなる事は悲しい。だけれども、私達は生きている。生きているという事は、いつの日か死が訪れるという事。

 死が訪れない生き物なんていない。――ずっと続くと思っていても、いずれ死が訪れる。……私はその日まで精一杯生きたい。皆が笑える場所を作りたいっていう私達の目標は着実に叶っていっていると思う。だってこの村は今の所、人に襲われたりする脅威に遭遇してはいない。




 ……不安要素はあるけれども、確かに少しずつ目標に近づいて行っている。私たちの目標を叶えるためにもっと何をしたらいいのだろうか。私は争い事とかは嫌いだと思うけれども、争いごとをしなければならない場合もきっとある。




 翼を持つ者達の事や、イルームさんたちの事。どうやっていけばいいのかというのが見えてこない。だけど、ランさんたちと相談し合いながら上手く事が運べば良いなぁと思う。



 私の神子としての力についてもまだ分からない事だらけだ。風の魔法は大分使えるようになった。フレネにも「いい調子ね」と褒められるぐらいには。風の魔法以外も使えるようになってみたいとも思っている。シーフォのように火を操れたりしたらもっと楽しくなるのではないかともそんな風にも思うから。

 ただ魔法というのはとても強大な力だから、その力を人になるべく向けないで済むようにしたい。……でも例えば、誰かが私の大切な人たちに危害を加えるのならば、向けなければならないかもしれない事。

 ……私は、皆を失いたくないから出来る事を沢山増やしたいと思っている。だからこそ、もしそういう場面になったら守るために、人に魔法を向けなきゃならないかもしれない。そんな風な場面で私はちゃんと動けるだろうかと考えると動けるのかどうかは分からない。




 今は、たまたま、人と敵対せずに済んでいるけれど——……いつか、きっとその覚悟をしなければならない。……頑張ろうって、お墓の前で誓う。

 じっと、お墓を見据えていたらガイアスがすぐ近くに来ていた。





「レルンダも来てたのか」

「うん」

「父さんが、死んでもう二年か……」

「……うん」



 アトスさんが死んで二年。




 八歳の誕生日を迎えてしばらくしてアトスさんは亡くなった。他でもない私と同じ人間の仕業で。私が追い付かなければガイアスだって死んでいたかもしれない。そう思うとあの時、ガイアスに追いつけて本当に良かったと思う。




 私達はこの二年で、大分、変化してきたと思う。

 エルフの人達に出会って、魔物退治をして。私は精霊と契約をした。

 それから新しい場所にたどり着いて。

 民族の人達と出会って。私は自分が神子だと自覚した。

 ガイアスは私の影響で狼に変身出来るようになって。

 イルームさん達や翼を持つ人たちと出会って。

 沢山の出会いを私達はしている。

 空の上で私達の事を見守っているであろうアトスさんは、そんな私達の変化に驚いているかもしれない。





「私達、結構変わった。私もガイアスもあの誓いを立てた時から……少しは強くなれたと思う。あの時の皆が笑い合える場所を作るって夢はまだ続いている。……今、とても幸せだけど。時々不安になる。また、アトスさんが亡くなった時みたいになったらって。そして……また襲ってこられたらって」




 私はこの村で幸せを感じている。歌唱会を行って、また歌唱会のような行事をしていきたいなってそんな気持ちを未来に馳せて。毎日が楽しみで、わくわくしている。



 でもそれと同時に不安もあるのだ。




 私はまだ、皆を守れるほどの力を手に入れられていない。この場所はとても穏やかだけど、まだ皆を守れるほどの場所には出来ていない。皆が安心できる場所にはなっていない。誰かが襲ってきたら簡単に崩壊するかもしれない。


 私は神子として力を持っているけれども、その力があったとしてもどうしようもない人が襲い掛かってきたら? お墓に来ると、そういう不安が余計に湧いてくる。






「……うん。俺も不安だ。ミッガ王国の人間がここに来るとは思えないけれど……もしミッガ王国の人間がここの存在を知った場合、俺達全てを奴隷に落とそうとするかもしれない」

「……うん」

「ミッガ王国だけじゃない、もしかしたら他の存在だって例えばレルンダを手にしようとするとか、そういうので襲ってくる可能性もあると思う」

「……うん」




 まだこの場所は周りには知られていない。私達がこの森の中でこうして村を作っている事は広まっていない。だからこそ、私達は平和を保てている。もし、此処の場所が知られたら?





「でも……そうなった時にどうにか出来る力を手に入れるために俺達は頑張るって決めたんだろ。また襲ってこられたらって俺も不安だけど、そのために俺達は出来る事を増やしてきたんだ。だからそういう事があったら応戦する」

「……そっか。私はちょっと、応戦は怖い」

「前の時は、俺は何も出来なかったから。レルンダに守られたから。だから今度は、動けるように。レルンダに守られたんだから今度はレルンダを守る。レルンダが応戦したくないっていうのならば、俺や他の人達だけでやる」

「……ありがとう。でも、もしそうなった時は怖いけど、私も頑張る」




 ガイアスの言葉は嬉しかったけれど、もしそうなった時は怖くても頑張りたいと思う。だって私は皆を仲間と思っているから。恐いからって、皆にだけ背負わせたくはないと思うから。

 ガイアスはそれに頷いた。

 



 ―――少女と、お墓

 (神子な少女はお墓の前で獣人の少年と会話を交わす)



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