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少女と、獣人の村 3

「その文字はね——……」



 目の前に優しく微笑むおばあさんがいる。


 グリフォンの巣に来ていたオーシャシオさんのお母さんで、オーシャシオさんそっくりの赤髪である。年のため少し色は薄れてきているが、顔立ちはどこかそっくりだ。

 家族だとすぐ一目でわかる。



 今、私はおばあさん——村の人たちにおばばさまと呼ばれる人に文字を習っていた。ガイアスと、他の村の子供たちも一緒だ。



 人間の書く文字と、獣人の書く文字は少しだけ癖が違ったりするらしいけど、大体一緒らしい。文字なんて生まれ育った村にいた頃は習ったこともなくて、文字を読める人もほぼいなかった。この村では、おばばさまが文字が読めない人たちに文字を教えたりしているのもあって文字を読める人が多いという話だった。

 文字を覚えたら、出来ることが増えるだろうから、おばばさまが「一緒に習うかい?」と言った時に喜んで頷いた。



 おばばさまは丁寧に教えてくれて、優しい目をしていて、おばばさまが私はすぐに大好きになった。

 文字の読み書きが上手に出来るようになったら、おばばさまが持っている本を読ませてくれるって約束もしたんだ。



 私は喋るのが得意ではないから、ゆっくりしかしゃべれないけどおばばさまはちゃんと話を聞いてくれて、笑みを浮かべている。おばばさまは優しくて、温かくて、安心する。



 文字を習ったあとは、村の人たちのお手伝いをしている。






 狩りには流石についていけないから、料理のお手伝いだったり、掃除のお手伝いだったり、服作りの手伝いだったり。



 お手伝いをしたら代わりに物をくれたりする。


 最初はお手伝いしたいって言った私を怪訝そうに見ていた人たちもいたけど、一生懸命お手伝いしたら笑ってくれて嬉しかった。

 村にいた頃は、雑用は言いつけられてやっていた。私に直接危害を加えることは出来ないからってそういうことをやるようにいわれていた。他にやることもやりたいことも特になく、それに言いつけられたことをやるのは私にとって当たり前だったからやっていた。



 獣人の村の人たちみたいに「ありがとう」と言ってくれる人は居なかった。此処の人たちは、ありがとう、って笑いかけてくれる。なんだかそれだけで、進んでお手伝いをしたくなった。


 グリフォンたちやシーフォも、一緒にお手伝いを手伝ってくれる。



 あとは、皆は狩りをしてくれて、それを獣人の村の人たちに分けると喜んでくれた。


 料理も習った。おばばさまは大きな街とかにあるような調味料などについても詳しくて、美味しい料理を知っていた。少し工夫しただけでも、こんなにおいしくなるんだなって私はびっくりした。




 獣人の村は、新しいことがいっぱい。

 知らないこと、やったことないこと、たくさん。



 何だか嬉しくなって前を見ずに歩いていたら、こけてしまった。膝がちょっと擦りむけた。

 怪我をするのは久しぶりだ。



 私は殴りかかられたりしたらそれは出来なかったりするけど、自分の不注意での怪我はする。

 すぐに周りにいた獣人が手当をしてくれた。手当をしてくれた場所は、怪我をした人たちが集まる薬師さんの家だった。その家は薬の独特の匂いがした。



 そこで薬師のお姉さんと少し仲良くなって、私のお手伝い先に薬師さんの家が増えた。

 色々なところでお手伝いをしながら、獣人たちと交流をする。私はこんなに沢山の人と会話を交わすのは人生で初めての生活だった。初めてのことばかりで、不安もあるけど、それより、初めてのことが嬉しいって気持ちが強い。



 家族も一緒にここにいて、ガイアスとアトスさんが優しくて、おばばさまのことが大好きになれたから、嬉しいって気持ちの方が強いのかもしれない。



 ここの、獣人の村、好きだな。皆が、好きだな。

 温かくて、心がぽかぽかする。

 そんな風に思ったことなかった。




「私……、皆、だいす、き」

「ぐるぐるぐるるる(それは良かった)」



 レイマーの金色の身体に寄りかかりながら思わずつぶやいた言葉に、レイマーが優しい声でいった。

 そういえば、レイマーだけ金色の毛並になったこともあって、獣人の村の人たちはグリフォンたちの中でも特にレイマーのことを敬っているらしい。とはいえ、レイマーたちは村の人たちのお手伝いをしたり、子供たちと遊んだりも今はしているから昔より距離が近くなったと言っていた。

 獣人の村に行ってもいいか、アトスさんにあの時聞いてよかった。此処に来られてよかったとそんな風に私は思えた。



 楽しく過ごしていたそんなある日のこと、獣人の一人が大怪我を負って帰ってきた。





 崖から落ちてしまったという。どうにか崖の下から助け出したけれども、ぎりぎりの状況だって。

 血が出てた。あんなに大きな怪我をしてる人を見るのははじめてだった。その人は私がお手伝いをすると、「ありがとう」と笑いかけてくれる獣人のお兄さんだった。



 頭が真っ白になる。周りが、騒がしい。大丈夫か、という声。泣く人。嫌だ、と思った。嫌なんだ、と思った。



 その人が、死ぬのが嫌だって、強く願った。

 願って、願って、強く願って————。

 そして光ったかと思えば、私は意識を失っていた。




 ―――少女と、獣人の村 3

 (多分、神子な少女は獣人の村が好きだと思う。だから——強く願った)



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