少女と、歌唱会 1
この地にたどり着いて、私達は少しずつ自分達の住まう村を整えてきた。
私はこの地での日々が好きだ。皆と共に、楽しく過ごす事が本当に好きだと思う。皆が大好きだと思うから、ずっとこの地で穏やかに過ごしていきたいと望んでならない。
翼を持つ者達や民族の人達、そして神官のイルームさん。
この地に居ついてから沢山の出会いがあった。そして、おばば様の死という別れもあった。
新しい場所での暮らしでばたばたしていた私達だけど、ようやく一つやりたいと思っていた事が催しとして出来る事になった。
それは歌唱会である。
グリフォン達やシーフォが歌を歌うのが好きだというのもあって、私はいつかそういうのやってみたいなと思っていた。
その事をランさんやドングさんに言ったら、「村のためにもなるだろうし楽しそう」という事で承諾してくれたのだ。
まだ、翼を持つ者達の事など心配な事はあるけれども、開催が出来る事が嬉しかった。
恥ずかしいけれど、私も参加する事にしている。皆で参加して、皆で楽しく過ごしたいと思ったんだ。
グリフォン達やシーフォも楽しみにしていると言っていた。
フレネは本人がやろうと思えば人前に姿を現して歌を歌う事は出来るけれど、参加はしないと言っていた。
今は、歌唱会の準備をしているところだ。
歌唱会を行うのは、村に設置されている広場である。
皆で準備をするだけでも何だか嬉しかった。
今回、翼を持つ人達やフィトちゃん達といった民族の人達も来ている。とはいえ、全員は来れないので限られた人数だけだけど。翼を持つ人達はどういう存在なのかまだいまいち分からないし、民族の人達の事もまだ皆警戒しているからちゃんと見張りを置いて開催になる。
ただ、イルームさんとシェハンさんに関してはまだフィトちゃん達と会わせる事に対する不安もあるため、不参加だ。イルームさんは不参加でも神子と同じ村に居れるのならば何でもいいと言っていて、シェハンさんはイルームさんがいればどうでもいいのか特に不満はなさそうだった。
歌唱会の準備のために私は、シノミとイルケサイ、ダンドンガと一緒にベンチを準備したり、舞台の設置をしたりとした。
手伝いに来ていた民族の人達は「神の娘は動かなくていい」などと言い出していたが、フィトちゃんに叱られていた。フィトちゃんが居てくれてよかったと思った。もしフィトちゃんという存在が居ない場合、民族の人達との関係は難しいものだったかもしれない。フィトちゃんが私の味方になってくれて、民族の人達の事をちゃんと見てくれるって誓ってくれたからこその今なんだと思う。
それに民族の人達はフィトちゃんが私から祝福を与えられたからというのもあって、神の娘としてではなく神の娘の祝福を受けし者として。フィトちゃんは神の娘の巫女とか呼ばれだしそうになっているらしい。
「レルンダちゃん、そっち持ってもらっていい?」
「うん」
シノミの言葉に頷く。
獣人の子供達と比べて、私は力がない。何もしなければ中々役に立たないから、私は身体強化の魔法を使って手伝いをしている。こうやって皆の役に立てる事が本当に嬉しいなぁと何度だって思う。
こうして皆で何かが出来る事は、本当に嬉しくて楽しくて仕方がない。
ランさんは力仕事は出来ないから、歌唱会のプログラムを作ったりといった仕事を一生懸命やっている。ランさんはやると決めた事に対しては全力で取り組む。私が開催したいと言った歌唱会を成功させるために全力だ。残念ながらランさんは歌は歌わないと言っていた。
「ピアノやヴァイオリンなどがあったらそちらの演奏ならすることが出来たのですが……」と、ランさんは言っていた。
ランさんはピアノやヴァイオリンといった楽器を弾く事が出来るようで、凄いと思った。貴族の嗜みとして弾く事が出来るらしい。そういう楽器、私もいつか弾いてみたいな。実物が手に入ったらランさん教えてくれるかな。
そんな願望と共に、新しい望みもわいてきた。
それはいつか、楽器も含めた催しやってみたいなと思ったんだ。
いつか——、楽器とかも用意出来たら楽しいだろうな。歌を歌って、楽器を弾いて、そういう光景が頭に浮かんだ。まだ、歌唱会は準備中で始まってもいない。それでも先の未来について想像して、私はわくわくした。
「レルンダ、どうした、手が止まってるぞ?」
「楽しみだなぁ、って思ったの」
思わず先の未来について考えて手が止まっていたらイルケサイに声を掛けられた。私はただ、笑って自分の気持ちを答えた。
そんな風に皆で協力し合いながら歌唱会の準備を進めるのだった。
―――少女と、歌唱会 1
(神子な少女の村で歌唱会が行われる事になった。その準備に皆が全力を尽くしている)
書籍は2019年1月18日発売です。
よろしくお願いします。